奈良市西笹鉾町 |
腰を入れる
「腰を入れる」 という表現が持つ意味を、文字通りの腰の問題として考えてみましょう。
腰が引けている「腰が引けている」 といえば 「本腰を入れていない」、「ビビっている」、あるいは 「おずおずとやっている」 というような意味ですね。全然やる気がないという意味に使うかもしれません。 例えば 「政府は年金問題で腰が引けている」 といえば誰でも分かります。 からだの体勢で考えれば 「腰が引けている」 とは、どんな状態でしょうか。 電車の座席で両脚を前に投げ出して、ジーンズの股を広げて坐っているお兄さん。スカートの女子高生までも、 この体勢で坐っていたりします。彼/彼女は、この状態で何もする気はない。携帯をイジっているにしても、 ひたすらリラックスしています。 この体勢で彼/彼女の腰は文字通り後ろに 「引けて」 いるでしょう。この場合の 「腰」 は腰椎のあたりで、 腰椎のあたりを後ろに出して、彼は坐っています。この状態では急に力を入れようとしても不可能ですね。まずは立ち上がって、 腰の体勢を立て直さないと、不測の事態に対処できません。脚をひっぱられたりすれば、 たちまちズルズルと座席からすべり落ちることになる。 腰と重心この反対が 「腰を入れる」 状態です。本格的に腰を入れていれば 「本腰を入れ」 ていると言われる。からだの体勢としては 腰椎のあたりが少し反(そ)っていることでしょう。つまり骨盤から腰椎にかけてのあたりに少し反り(そり)がある状態を 「腰を入れる」 と呼んでいます。誤解のないように言っておきますけれど、反りがあるといっても、あくまで 「少し」 であって、 やや反りのある気持ち程度です。大きく反ってはいけません。そんなことをすると、反ることに意識が行ってしまって、 何もできなくなってしまいますから。
さて、このような腰の状態が歩き方と関係しています。試しに、ちょっと立ち上がってみてください。 そうして 「腰が引けている」 状態で歩くのと、「腰を入れている」 状態で歩くのと、どう違うかを観察してみましょう。 腰椎が少し後ろへ来て曲がり気味の状態と、腰椎が少し前に出て反っている状態と、この二つの状態で歩き比べてみてください。 どうですか。足の重心の位置が違うでしょう。「引けている」 状態では重心が外に寄っています。 ところが 「入れている」 状態では重心が足の内側に寄ってきます。よく足は親指に力を入れて、手は小指に力を入れるのがいい、 と言われます。腰を入れていれば、親指に力の入る状態が自然に実現することになります。まとめて書いておきましょう。 腰が入っている → 足の重心が内寄り 足は内側に重心が来るとよい、と聞くと、親指に力を入れて歩けばいいんですね、という人があります。でも、 これは長い時間つづけるのが難しい。すぐにくたびれます。それよりも腰を入れて、腰に少し反りをいれて歩くように注意すればいい。 疲れてきたら、腰が引けた状態で歩いてもいいでしょう。しばらくすれば、また 「気」 を取り直して腰を入れて歩きます。 これならあまり疲れずに済みます。
内側に重心がくると・・実は、この区別は歩くときに限りません。正坐をしている姿を後ろから観察すると、腰が引けているか入っているかを、 すぐに区別することができます。正坐をすると、いつも腰が引けている状態で坐る人は、上体を腰の力で支えるのが難しいために、 腰を引いてしまっていることになるでしょう。 子どもの時に親から、もっと胸を張って歩きなさい、と注意された記憶がある人もいるでしょうが、こういう人は、 腰が入っていなかったことになります。腰が入っていないと、どうなるか。胸と腰とは関連しています。つまり、 胸を張るためには腰が入っていないと無理です。胸を張ろうとすれば、かならず腰を入れなければなりません。これが一つ。 もう一つは腰が膝と関連していますから、腰が入っていないと、やがていつの日か膝を傷めることになります。 老人のO脚を思い浮かべてください。膝が曲がっているだけでなく、腰も曲がっているでしょう。膝を痛める大きな要因は、 腰が入っていない状態であれこれしていることです。誰もがやがていつかは通る道、とあきらめてはいけません。 そんなことをしていると、やがてあなたも膝を傷めて杖の世話になることになります。 結局なにが問題なのかを別の観点から考えてみましょう。人間がまだ四足で歩いていたころを考えてみます。 その時には腰椎が立ち上がっていませんでした。骨盤もほぼ水平になっていました。その後、 人類は直立二足歩行をするようになります。すると、骨盤も立ち上がり、背骨も立ち上がります。 背骨や骨盤にとって大変な変化が起きたことになります。その矛盾をいちばん受けたのは腰椎の下部です。 人体の骨格模型をご覧になれば分かりますけれど腰椎の下の方、特に腰椎4番、5番と呼ばれるあたり、 つまり骨盤のすぐ上の腰椎がすばらしく反り返っています。この反りを維持できるかどうか。 これが人類にとって腰の重大な課題になったわけです。(この項つづく) (08.12 初出)
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