奈良市西笹鉾町
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腰を入れる・U

 

「腰を入れる」 という表現の意味を、文字通りの腰の問題として考えています。その続き。

蛙と遊ぶ仙人(東近江・永源寺)

腰が引けると・・

人間がまだ四足で歩いていたころ、背骨は立ち上がっていませんでした。骨盤もほぼ水平になっていました。 その後、人類は直立二足歩行をするようになります。すると、骨盤も立ち上がり、背骨も立ち上がります。 背骨や骨盤にとって大変な変化が起きたことになります。

もともと4本の脚で身体全体を支えていたものが、2本の脚で、しかもこれまでとは90度ちがった方向に支えなければならない。 この大役を引き受けることになったのは腰椎の下の方です。人体の骨格模型をご覧になれば分かるとおり、5個ある腰椎の下の方、 特に腰椎4番・5番と呼ばれるあたり、骨盤のすぐ上の腰椎が素晴らしく反(そ)り返っています。この反りを維持できるかどうか。 これが人類にとって重大な課題になりました。

この課題を人類は一応は解決しています。現に、人は数10年のあいだ直立二足歩行を続けることが出来ます。でも、 あやういところもあると言わなければなりません。例えば、この腰椎4番・5番のあたりがつぶれやすい。 骨の連結部が横にはみだすと 「ヘルニア」 になりますし、骨が反りを支えきれなくなって前に滑ってしまうと 「すべり症」 になります。 また、そこまで行かなくても、反りがだんだん減ってくる現象がおきます。つまり腰が曲がってくる。 それが下の方に影響すると膝を痛める。上の方に影響すると猫背になる。膝痛や猫背は、腰曲がりの影響といっていいでしょう。

もたれずに・・

先日こられた60代の男性とこの話しをしていると、

――私の父は101歳なんですが、ソファに坐っても決してもたれないんです。 あれはすごいですね。
とおっしゃいます。ご老体の長寿の秘密は、後ろにもたれないこと ではないでしょうか。 もたれてみると分かりますが、腰が引けた状態になります。応接セットでも同じ。ところが、もたれずに坐ると、腰を入れた状態、 つまり反りを維持した状態になります。101歳の人が反りを維持しているのは確かにすごい。

羅漢像 (東近江市・永源寺)

坐椅子についてもソファと同じことが言えます。あれは腰にとって最悪の道具の一つでしょう。 何しろ腰を入れた状態では決して坐れないですから腰痛の原因になりかねません。 事務椅子にもたれてパソコンを操作するのもあまりよくないですね。電車の座席はどうか。 昔ながらの 「国鉄」 時代の木の椅子なら、腰が引けた状態に坐ろうとしても坐れないでしょう。そんなことをすれば、かえって疲れる。 坐るのにはあれが一番いいのではないでしょうか。

今度は立っている時、あるいは歩いている時のことを考えてみましょう。 この時も 「腰を入れた」 状態と 「腰が引けた」 状態とがあることが分かりますね。腰を入れると足の重心が内側に寄ってくる。 腰が引けていると足の重心が外側に寄ってきます。寒くなってブーツで 「颯爽と」 歩いている若い女性が多くなりましたが、 よく見ると、ヒールのところが斜めに倒れていて、ずいぶん無理をしていることが分かります。 腰の入らない状態で歩いている人が多いことが分かるはずです。30代の女性のお客様に 「若い女性が颯爽とブーツで・・」 という表現をしましたところ、「颯爽としていませんよ」 という答えが返ってきました。なるほど。

そう思ってみると、通りを歩いている人の腰が入っているか、引けているかが、その姿勢を見ただけで分かります。 すでに老齢期に入っている人でも、腰がしっかりしている人がいるかと思えば、若いのに、腰の引けたぶざまな格好で歩いている人もいます。 若い人の場合、まだ腰の力がありますから、ぶざまな格好でも何とかやっていけるでしょうが、老齢期にさしかかった人だと、 その状態がどんどん進んで行くことになるでしょう。

トケイソウの一種 (花空間けいはんな)

力がこもった腰

ところで、さきほども例にあげた腰椎の4番・5番というあたり。場所は、ほぼおへその裏側の少し下です。といえば、ああ丹田か、 と思い当たる方もいらっしゃるでしょう。昔からおへそのすぐ下あたりの奥を 「丹田」 と呼んでいますね。 これもまた先日のお客様のせりふですが、「丹田に力を入れていたら安定するんでしょう?」 とおっしゃいます。でも、 これは誤解じゃないかと思います。

確かに腰椎4番・5番は、おへそのすぐ下の奥に当たります。場所はそれでいい。でも 「力を入れる」 というのはおかしいのではないか。 丹田に力を入れるとお腹が硬くなります。普段からそんなところに力を入れていたら、とてもくたびれます。 どこにも無駄な力の入っていない状態、しかも安定した状態が最高です。お腹がカチカチの状態がいいはずがありません。 これは 「丹田に力がこもっている」 というのを 「丹田に力を入れる」 と誤解した結果ではないでしょうか。腰が入っている状態なら、 自然に丹田に力がこもっている といえます。そこに力を入れなくても、自然に反りの力がこもっていることになります。

ところが現実には、反りの力を発揮できないほど骨盤や背骨の硬くなっている人が多いのではないか。腰椎や骨盤の周辺が柔らかければ、 前屈・後屈・側屈・ねじり・開脚がそれなりにできるはずです。こういう動きができないようになっていたら、 骨盤・股関節・背骨の動きが少なくなってきている証拠です。対策の一つは腰を入れて歩くこと。 歩いている時に腰に手をあてて確かに骨盤が動いているのを確認してみましょう。 そうして腰を入れた状態と腰が引けた状態とで骨盤の位置がどれだけ違うかも確かめてください。もう一つの対策は、 前屈・開脚のような動きを含むヨーガなどに取り組むことでしょう。

 

腰を入れる

(08.12 初出)
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