![]() 奈良市西笹鉾町
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「パソコン肩」?
近ごろ 「パソコン肩」 というものが流行しているらしい。なんだ、それは? パソコンが肩を凝らす? そんなわけない。「パソコン肩」 と聞くと、どんなことを想像しますか。まさかパソコンが肩を凝らしているわけはない。 そう。毎日のように仕事場でパソコンとにらめっこをしているあなたの肩が凝っている。それですね。 人によっては 「PC肩」 と呼ぶ人もあるでしょう。 このところ、「パソコンを使っています、肩が凝って凝って・・・」 と相談に来られる人があまりに多いので、 これに 「パソコン肩」 と命名しようかと思いました。ところがウェブで検索してみると、 「パソコン肩」 が続々と出てきます。みんな同じようなことを考えてたんだ、と分かったわけです。 もちろんそれなりの理由があって、こんな名前をわざわざ付けようと考えたわけです。 「パソコン肩」 が従来の肩こりとどうやら少し違うらしい。普通の肩こりとどう違うのか。 癒着は少ないが、とても厳しい。
肩がこった人の肩関節を見ると、たいてい強い癒着を起こしています。 癒着という表現は強すぎるのかもしれません。しかし、現実に五十肩の人の肩関節を見ると、 上腕骨に肩甲骨がくっついて一緒に動いていることが分かりますから、やはりこれは癒着と呼ぶしかない。 ただし、その程度はさまざまで、癒着とは呼べない症状の人もいますから、 何でもかんでも癒着と呼ぶのは正しくないでしょう。癒着から硬化まで、 さまざまないろどりの異常が肩関節に生まれていると思われます。 「パソコン肩」 の人はどうか。よく見られる特徴は、本人が苦痛をうったえるほどには癒着が強くないこと。 逆にいうと、肩関節の癒着は大きくないのに、肩こりの程度がきついということです。なぜなのか。 これは難問です。いまのところ、このような現象に気づいているだけで、その原因は推測の域を出ません。 でも、ともかく原因を探ってみたい。 「パソコン」 など、四字略語が氾濫しています。メールマガジンが 「メルマガ」 とか、 「財テク」、「ゲーセン」、「デパ地下」 などというのもありますね。米語で、UNESCO とか UFO とかと 表すのと似ているかもしれません。ただ伝統の言語にこだわる人は、品の悪い言葉として退けるでしょう。 私自身、話し言葉としては 「パソコン」、もっと略して 「パソ」 などということもありますが、 書き言葉としては、美しい言葉だと感じません。「じぇいあーる」 が汚い響きだと感じるのと同じでしょう。 大阪のJR難波駅に 「じぇいあーるなんば」 と表示してあるのを目にすると、からだ中がかゆくなってくる。 ですからコンピュータとか電脳といったほうがましだと感じるほうです。でも、 この話をつづけるとまた脱線してしまうので、このくらいにしておきましょう。 何、もう脱線したあとだ? 失礼しました。 腕と肩の動きが重要だ。
電脳の作業を考えて見ましょう。カラダの各部で動いているのは、 キーボードを打つ指先、マウスを動かす右手、画面を見つめる眼球、そんなところでしょうか。 ときどきダルくなった足先を動かすことがあるような気がしますが、たいした動きではありません。 ブラインド・タッチのできる人なら首も動かないでしょう。つまり、ほとんど身体が動かず、 頭脳の中だけが動いているのが特徴です。するとどうなるか。 おサルさんを使った残酷な実験に、昔こういうのがありました。サルが首を上げられないように、 首を前倒しにして固定しておく。そのまま放っておくと、一週間ほどしたらサルが失明してしまったという。 いま問題にしている状況は、ここまで厳しくはありませんけれど、似たところがあります。首の周辺が あまり動かない状態で固定しているに等しい状況になっているわけです。いまキーボードを打っている 私自身がそんな状況ですね。 ミルキング・アクション milking action というのがあります。全身の中でも、脚の筋肉が歩くたびに 収縮・拡大を繰り返しています。この筋肉の動きが静脈血管の中の血液を心臓のほうへ戻す働きをする。 これは脚で特に顕著です。しかしその他の部分では、そのような動きがないのかといえば、そうではない。 やはり他の部分も動かさないとまずいです。静脈血がうまく心臓に戻って行かない。 よく足が冷えると嘆いている人がいますけれど、一つの要因は静脈血が戻らないことにあるでしょう。 肩こりよりも股こり、語呂あわせではない。というわけで 「パソコン肩」 の人は、 肩こりというより 「首こり」 とか 「股こり」 という状態におちいっているのではないか、 そんなふうに思います。野球少年の肩をみると、ひどい肩をしていることが少なくありません。これは、 送球など肩の酷使によるものです。ところが 「パソコン肩」(あるいは四字略語で言えば 「パソ肩」) では肩そのものを使うような作業はほとんどありません。むしろ表面でみるかぎりジッと座っているだけです。 ですから肩なり首なりの血液の流れが悪くなっているのは当然として、関節面が傷んで癒着に進む ところまで行っていないのでしょう。 それにしてもみんな共通して首が硬い。硬くなっているところを押えると、痛い痛いという。 首の骨がずれているのかというと、さほどでもないことが多い。これは 「首こり」 とでもいうべき状態です。 もう一つは、股関節の異様に硬くなっているケースが多い。股関節が硬くなりますと、 背中の起立筋群がひっぱられて硬くなってくる。これが首にまで及んでいます。 首をゆるめるために股関節をゆるめなければならない場合が目立ちます。脚を使わず、 一日じっとしていて、しかも肩も首もほとんど動かないという異常状態がどんな状況を生むか。 それを世界中のオフィスで現在実験中というわけです。 「パソ肩」 になるのが嫌なら、机の下でよく脚を動かすこと。暇があれば歩くこと。 同僚のお茶汲みを積極的にして、みんなに喜んでもらう(もちろんその目的は秘密にしておく)こと。 それからキョロキョロと周囲を見回しながら作業をすることでしょう。変人だと思われてもかまわない。 わっしは 「パソ肩」 が嫌ですけん、と言っておけば、そのうちなるほどと納得して、 真似を始める人も出てくるかもしれません。
・・・という話しをさきほどお客様にしたところ、パソコンの現場はもっと厳しい、へんな上司にあたると、 ちょっとよそ見をしただけでも睨まれる。トイレに行くにもはばかられる。一日中、 画面と睨めっこの人が喜ばれる――そういう雰囲気ですよ、と言われました。お茶汲みもできないのかどうか、 そういう作業場で仕事をしたことがないので、私には分かりません。こんど来られた人に聞いてみましょう。 翌日談というわけで、翌日こられた男性に上の件について尋ねてみました。彼はパソコン現場の 監視をする立場の人らしく、次のように話してくれました。 ――監視というのは、ちょっと違いますね。私もそういう立場ですが、監視をする気持ちはありません。 むしろ、そういう雰囲気があるとすれば、お茶を入れようと誰かが席をたったら、電話が入った時に すぐ他の人がカバーしなければならないでしょう。トイレに行くのも、同じ理由で行きにくい雰囲気が あるのは事実かもしれません。自分のデスクから他のパソコンをのぞくこともできますから、 監視されている雰囲気といえば、まあそういうことになるでしょうね。 というような話でした。今のパソコン労働は類例のない新しいタイプの労働であるように思えます。 この労働がひき起こしている 「パソコン肩」 が肩の症状にとどまるのか、 それとも別の問題をこれから起こしていくのか、関心を持たざるをえません。 ただ、この翌日の男性は2回来ただけで、肩や首がずいぶん楽になったと喜んでいました。 そのようにラクに解決するのならいいのですが、さてどうなることか。 |