股関節と骨盤

股関節が痛いという人が近ごろ増えているように感じます。股関節そのものが悪いのではなく、骨盤が傾いたり、捻れたりしているために痛みが出るのではないだろうか。

tuwabuki
ツワブキ

本当に股関節が悪いのか

60歳代の女性Aさん。病院で診てもらったところ股関節の悪いことが分かり、歩いていると鼠径部(そけいぶ)に痛みが出ると言われます。股関節の外にある大転子(腰骨の出っ張りから20センチほど下にある出っ張り)を外から押えてみると、左が少し飛び出している感じです。左の股関節のハマリ方が浅く、「臼蓋形成不全」(きゅうがいけいせいふぜん、股関節の嵌っている臼がもとから浅い)だと言われたそうです。だが痛くなり始めたのは2年前だという。それなら、生まれつき悪いわけはないでしょう。その上、右も少し悪いという。

股関節を回す操法(下腿を持って膝を曲げ、前方から外方にぐるっと回す)をしてみると、かなり動きが悪いけれど、何度か繰り返すと少し動きがよくなった感じです。しかしまだ動きが硬く、改善したとはいいにくい。どこが悪いのか。例によってあちこち骨盤とか足首とか、いろいろ試してみますが、いまいちツボにハマった感じがしません。

fuyuzakura
フユザクラ

回旋した骨盤

ツボにハマった感じがない時や何だかすっきりしない時は、事故などがなかったかどうか詳しく聞いてみるのが定石です。膝をついたことがあるとか捻挫の軽いものをしたことがあるとか、その程度の答えしか引き出せません。うーん、困った。椅子に坐ってもらうと、あ、これは左腰が前に寄り、右腰がうしろに引けています。

── ひょっとしてテニスか何かしていましたか。
── テニスは20年ほど続けていますよ。
── それや。なるほど、そういうことか。

という次第で、テニスで身体が捻れているのが原因だろうと判明しました。「股関節が悪い」と病院も本人も信じています。それはそれで間違いなく、股関節に痛みが出るわけですから、決して誤りとはいえません。でも「臼蓋形成不全」という病名をつけるのは誤りではないでしょうか。臼蓋に問題があるのではなく骨盤が捻れていることに原因があるわけですから。

そう思って骨盤の捻れや回旋(一方が前、一方が後ろに来ている)が変わるかどうか試そうとしましたが、身体に複雑な捻れがあって、伏臥の時と椅子坐とで何となく姿が違います。からだの位置によって捻れ方が逆に見えたりする。こんな人は厄介です。見える姿が位置によって異なる場合、何を基準にするか。自然な姿を基準にするしかありません。椅子坐を基準にします。

伏臥の状態で見える形ではなくて、椅子坐の形を基準にして操法をすると、かなり全体の姿が改善しました。骨盤の回旋を扱うのに最近の私は大正時代の「正體術」を応用した《打ち込み法》を使っています。

まず椅子坐か正坐の姿勢でどちらの腰が後ろへ行き、どちらの腰が前に行っているかを観察します。次に仰臥の姿勢になってもらう。畳の上、板の間等、硬めの場所でないと、うまく行きません。腰が前に行っている方の足首を、操者が5センチほど持ち上げて5秒間保ち、トンと落とす。後は触らずに、2~3分静臥させておきます。その間に身体が徐々に変化してきます。見ていて何となく変化して来ているな、と分かる人もいます。また本人が体内の動きを感じる敏感な人もいます。

kaede
カエデ

股関節が悪いのは見掛けだけ

さて、頃はよしと立たせて、朱鯨亭の急な木の階段を昇り降りしてもらうと、左右で違っていた足の位置が揃ってきたと言われます。歩く時の足の位置が左右で違うなら、骨盤の捻れや回旋があるはずです。それが改善してきたということです。

まだ改善は不十分で、これからも何度か操法をして行くことが必要ですが、取り敢えずどうすればいいかが分かったのは成果でした。ひと言で表すと、股関節の異常は、股関節そのものの病変というより、むしろ骨盤が回旋していることに原因がある、ということになります。股関節が悪いのは見掛け上であって本当の原因は骨盤の回旋にある。そう思ってみれば、そういう例が随分多いのではないかと思えてきます。

テニスが身体に悪いという気はありませんが、テニスのやり方や、後のケアに注意することが必要である、とは言えるでしょう。そうして骨盤の一方が前に行っている状態、正坐すれば膝のどちらかが少し前に出ている状態は、どこかに問題を生じている可能性が高いといえるでしょう。

( 2012. 11 初出 )