肘を掛けると肩が・・・
肘を長時間ついていると、腕や肩がおかしくなる可能性があります。
肘をかける、とは?
肘をついて顎を支えると顔が歪むという説をご存知の方は多いでしょう。この場合の「肘をつく」は机の上に肘をついている姿勢です。いい姿勢とはいえませんが、顔が歪むかどうか私は確かめたことがありません。「肘を掛ける」は「肘をつく」と少し違います。肘掛けのある椅子に坐った時、肘掛けに肘を置くという意味です。「肘掛け」とは言いますが、「肘を掛ける」という言い方は、あまり耳にしません。「肘をつく」とは違うことを強調するために、ここでは敢えてこう言っておきます。
電車の横向き2人がけの座席に坐った時、肘を掛けますね。映画館や音楽会場の肘掛けも同じことでしょう。自宅の肘掛けの安楽椅子に長時間にわたって坐る人もいるかもしれません。
さて、私自身の話し。先日の休み、滋賀県の湖北地方へJRに乗って行きました。往きはよかったのですが、帰りの座席に坐っていると、身体の調子がおかしい。何だかあちこちが痛く、歪んでいるに違いない。左腕が少ししびれているような気もします。なぜかと考えて気づいたのは、往路からずっと左肘を掛けていたことです。途中で乗換えもあったので、同じ位置に坐っていたわけではないのですが、結果としてずっと左肘を掛ける位置に坐っていたことに気づきました。
奈良から滋賀県の北の方まで2時間はたっぷり掛かりますから、近い距離ではありません。長い時間、左肘をかけて坐っていたことになります。カミサンに交替してくれるように言って、席を替わりました。こういう変なことを時々言い出すのにカミサンは慣れていますから、何も言わずに替わってくれました。彦根のあたり(滋賀県の真ん中あたり)だったかと思います。その後はホッと居眠りをして、気がつけば山科(京都の東部)でした。もう痛みは消えていました。
肩が前に飛び出してくる
この一件から数日後、首の右側や右肩が痛いという男性が来られました。出張で新幹線に乗って広島まで行ったところが、ホテルでどうも首が痛くて苦しい。マッサージをしてもらったところが、直後はよかったものの、やがて激痛になってどうしようもなくなった、とのことでした。
これで思い出したのが自分自身の先日の体験です。ひょっとして新幹線の北側の二人席の窓側に坐っていたのではないですか、とお聞きすると、その通り。やはりこの男性も新幹線に乗っている間、ずっと右肘を掛けていた。奥様によると、新幹線に乗っている時は、ずっと肘を掛けているようだ、とのことでした。やはり肘掛けに問題があるのだ。
もちろん座席の肘掛けに責任はありません。そこに肘をずっと掛けていたのがよくなかった。どういう肘の掛け方が悪いのだろうかと、色々試してみました。軽く肘を載せている程度なら問題は小さそうです。ところが肘を深く手前に引いて掛けると肩関節の前が飛び出してきます。2時間なら2時間のあいだ肩関節をずらせたままじっとしているのですから、歪ませるための矯正法をしているようなものです。事実、この男性の肩関節も前に向かって飛び出しかけていました。
「前肩点」
課題は、前に向かって飛び出しかけている肩をどうするか、ですね。一方の肩が前に出ているのは、上半身が少し捻れていることを表しています。また捻れか、と言われても、捻れは全身にわたって影響するから仕方がありません。歪みの根本に上半身の捻れがあるので、その解決が根本課題です。でも、とりあえず何とか肩の痛みを軽くしたいと誰でも思うでしょう。どうすればよいか。
今回は手と全身の対応関係(共鳴)を使います。肩のとび出すところ、つまり肩関節の前はどこと対応しているのか。腕と手の対応を見る時には、掌側を上に向けてみると、よく分かります。ご自分でもお考えになっていただきたいですが、結論だけを書いておきますと、肩関節の前が対応する点は、薬指の付け根の掌側です。
肩が痛い側の掌を机の上に広げてみてください。右腕が痛いなら右手の掌を広げる。そうして薬指の付け根の横紋に注目してください。数本のスジが見えます。そのスジのど真ん中よりやや(2ミリほど)指側を反対側の示指(人差し指)で軽く押さえる。この点を「前肩点」と呼んでおきます。前肩点を1分ほど続けて押さえます。きつく押さえる必要はありません。軽くで結構です。(経穴図ではどうなっているか探してみましたが、この点は経穴に登録されていない点のようです。)
すると今までずっと痛くて痛くて我慢できなかった肩が、しだいにスウッとしてくるのが分かるでしょう。これだけです。これで取り敢えず痛みから逃れることができるはずです。そうして、今まで出っ張っていた肩の前が少しへこんで来たことが分かります。撫でてみると、確かに今までの角ばった感じが少し減っている感じがします。柔らかになっている。
肩の前が痛い人は実に多いので、役に立つはずです。ただ、根本解決になるとは申しません。はじめに書いたように、上半身の捻れが解消したわけではないので、このままだと、また同じことを繰り返す可能性が残っています。でも、取りあえずは楽になるはずです。
ただし、あまり同じことを繰り返すのは好ましくありません。どんな操法にしても同じことを繰り返すと、どこか他にも影響が及んでいますから、別のところが歪んで来る可能性がありますので、気持ちいいから何度もやるのは、くれぐれも避けてください。どうしても我慢できない時の切り札に、「前肩点」をとっておくことです。
( 2011. 08 初出 )