腰痛も全身とつながる

腰痛といっても様々な状態があって、全身とつながっています。油断なく観察しないと見逃してしまう状態もあります。そのような典型的な例を取り上げてみましょう。

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ひょっとこ・おかめ(大津市)

年末年始の腰痛

年末年始は「腰痛」を起こす人が多いらしい。慌(あわ)てて電話してくる人が増えます。痛む場所はさまざまで、左右どちらか片方がおもに痛むとはいえ、腰のまん中にある仙骨のあたりが痛い人もありますし、骨盤より上の腰椎(大まかにいって、背骨をさわってみて左右に肋骨のない部分)のどちらかが痛いという人もいます。先日の女性Kさんは中でも痛みの激しい例を示していて、骨盤の両側だけでなく肋骨の下あたりも痛むといわれます。腰痛の一つの典型を示していましたので、取り上げておきたいと思います。

この人の場合、仙骨が右に傾いていました。腰椎は仙骨のすぐ上に、鎖のようにつながっていますから、これも右に傾きます。傾くというより、鎖ですから右にねじれて背骨が曲がっているわけです。少しの曲がりなら常に見かけますけれど、この方の場合は、少々ではなく、背骨をなぞってみると、文字通り「くにゃ」と曲がっているのが分かるほどです。これは痛いはずだ。

どんなことをして、こんなひどいことになったのですか、と尋ねてみると、年末に大掃除をし、重いスーツケースを持ち上げたら「ぎくっ」と来たとのことです。その前はどうだったのか、と尋ねると、その前から腰が少しおかしいなあと思ってはいたのだそうです。それはそうでしょう。突然こんなひどいことになるわけはない。Kさんは仕事の関係で座業が多いようですから、日頃から腰が後ろへ曲がって傷みやすい形になっていたと考えられます。

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東大寺の大仏池(奈良市)

だいぶ重症?

「だいぶ重症ですよ」と私。まあ、こういうせりふはあまり吐かない方がいいでしょうね。聞かされたら「ぎくっ」としますからね。でも、思わずこんなことを言ってしまうほどヒドい。この「くにゃ」はあんまりです。よく聞いてみると、年末に痛くなって、年明けは動けなくて寝ていたそうです。せっかくの正月がふいになってしまったわけで、お気の毒という他ありません。なぜもっと早くいって来られなかったのか、と尋ねますと、痛くてとても来れる状態ではなかったとKさん。それじゃあ、やむをえない。

仙骨を立て直すと、腰椎もかなりマシになりました。「仙骨を立て直す」と一言で書けば簡単ですが、言葉で説明するとなると、かなり難しいことになります。手の甲にある「有頭骨」という骨の外側をしばらく押さえていれば、共鳴作用で直ってくるのですが、「有頭骨」の位置がどこかとなると、図に描いても難しい。来ていただければお教えします、と言っておきましょう。

で、仙骨を立て直しました。でもまだ少し背骨が曲がっていますし、仙骨のあたりも痛いという。仙骨のあたりが痛いのは、仙骨とその両側にある腸骨との関節が開いているためですので、これを閉じてやります。すると骨盤のあたりの痛みは軽減してきました。けれど、腰椎の左が痛いという。普通は「くにゃ」となって出っ張っている右側に痛みが出るはずですが、どういうわけか、左の肋骨の下あたりが痛いという。何だ、これは?

肋骨が下がっていた

そこでいちばん下の肋骨を左右で比べてみますと、左があきらかに下がっています。左の肋骨が下がっているために、その下の部分が圧迫されて痛いわけだ。肋骨が下がっていると表現しても、背骨が曲がっていると表現しても同じことでしょう。いずれにしても右と左の肋骨の高さが違ってしまっています。これは腰痛と上からの圧迫と、二つの状態が合併していますよ、と私。またしてもご本人が心配するようなことを口走ってしまいました。

tokeisou
トケイソウの一種
(花空間けいはんな)

次に、左を上にして横向きになってもらいます。そうして肋骨を上向きに軽く押さえ続けること 90秒。この時の押し方は、ごく軽くなければなりません。ぐっと押すのではなく、少し上向きに押している気持ち、程度です。左が下がっていても、左右のバランスのために右側も同じようにします。どちら側がどれだけ上がるかは自然に決まるはず。これで肋骨が上がりました。試しにこれで身体を動かしてもらいますと、かなりよくなったけれど、まだこの辺りが残っていますと、腰椎の横と左肋骨の下をゆび指されれます。まだ腰椎のゆがみが残っているのでしょう。

共鳴を使って腰椎のゆがみを整えると、痛みが消えてきました。そうして立ち上がってみてください。―― ああ、これで大丈夫です。ありがとうございます。やれやれ、もう一時間が過ぎていました。こういう時の一時間は早い。

変わりすぎて怖い

念のため一週ほど後にKさんに来ていただきました。どんな様子ですか、とお尋ねすると、また悪くなったら怖いので、自重しているんです、と言われます。まだ具合が悪いのですか、と聞くと、いやあまりに変化が大きすぎたので、なんだか怖いんです、といわれる。前回来られた時の変化がですか。そうです、もう何もなくなったので、そんなにすぐ変わるものかな、大丈夫かな、と。

こういう心配もあるのでしょうか。確かにあれはヒドかったですから。拝見してみると、もう骨盤の歪みもなく、ほぼ問題なくなっていました。Kさん、大丈夫ですよ。

最後に解説めいたことを付け加えます。仙骨が傾き、腰椎が曲がったために、その上の背骨全体も右に弯曲してしまったんでしょうね。左の肋骨が下がることになってしまいました。つまり「腰痛」といいますが、腰だけが悪いのではないことがこれで分かります。腰の負担が大きいために腰に痛みが出るだけで、歪みは全身に及んでいたんですね。これは一つの典型です。つまり状態が特にはっきり現れた例だったことになります。

どんな人でも、部分だけが歪んでいる人はいません。全身はつながっています。逆にいえば、部分だけを修正しても役にたたない。全身がどのように歪んでいるかをとらえることが大切です。

( 2009. 01 初出 )