足首の異常 ~ 左右の釣り合い (2)

思い込みが観察を妨げることがあります。誰しも思い込みで生きていますから、それを捨てるのは難しい。でも・・・

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フラグミペディア

左右の下腿の太さ

足首の前が猛烈に痛い。そう訴えて来た人がいました。「前」といっても、本当に足首のすぐ前、下腿から足に曲がるところです。ここに不調を訴える人はあまり多くありません。ここは、下腿の脛骨(けいこつ、すねの太い骨)と、その下にある距骨(きょこつ、ベアリングの働きをする骨)の境目です。この関節は他の関節と比べても自由度の高い関節で、確かに故障を起こして動きが悪くなることがありますが、痛みを覚えるほどに普通はなりません。

なぜそこが痛いのか。色々とやってみて、なかなかうまく行きませんでした。鍼やカイロ・整体と、あちこちの治療院をさんざん回って、どこも直せなかったのだと言われます。こういう人が多いから、うまく行かない時にうちのカミサンから「あなたは神様ではないんだから」といつも慰めてもらっているようなわけです。でも結論は簡単しごくでした。すねの脛骨と隣にある腓骨(ひこつ、ふくらはぎにある細い骨)との間隔が開いていただけでした。2本の間隔を締めてみると、すっと痛みが消えました。

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カクチョウラン

思い込みが観察を妨げる

後から考えてみれば観察が不足していた。それが分からなかった原因です。左右の下腿の太さを観察していれば、すぐに分かったことなのに、なぜ調べなかったのか。左右の下腿の太さを比べるという観察は、脚の故障ではイロハのイの字です。なのに、なぜ調べなかったのか。脛骨と距骨との関節に異常があるはずだと思い込んでいたからです。思い込みが失敗の原因だと言ってもいいでしょう。誰もが思い込みに囚われ、その思い込みから脱出するのが難しいのは確かだ。いや他人の話にしてはいけませんね。私は思い込みがきつくて、脱出するのがなかなか難しい。

ところが。何でもそうですが、何か問題を考え続けていると、思いがけないところから解決することが多い。発明・発見には偶然の失敗が成功のもとになったという逸話が多いですね。急がば回れ、失敗は成功のもと。思い込みを一旦捨てて、原点に戻って考えると、なんだ、そんなことか、と膝を叩くことが多い。少なくとも私はそうです。

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オンシジウム

差があって当たり前

こうして問題が解決しました。結論は、改めて脛骨と腓骨の開きという問題がどれだけ重要かを改めて確認した、ということに落ち着きました。左右で下腿の太さが違う人が多い。太さに違いがなくても強く握ってみると、一方の脚に痛みを感じることが多い。どちらにせよ左右差があります。まとめてみれば、脚の左右差は多くの人に見られる、これが脚の操法の原点だ、ということになります。左右差が大きいと問題を引き起こすわけです。この場合の施術法については過去に何度か書いていますので、HPの「母趾操法」の項目をご覧ください。

ただし、この違いは施術する側からすれば、どうしても直したくなるところですが、ひどい差がないかぎり放置しておいて大した問題ではないらしい。なぜかと言えば、たいていの人が差を抱えていて、それで問題なく生活しているからです。あるいはスポーツをしている人は、そのスポーツ独自の差をあちこちに抱えていて、直すと却って成績が悪くなることも多いらしいですから。

左右の釣り合いといっても、まことに微妙なところがあって、何が正しいかは、身体の持つ知恵に委ねる他はないようです。下手にいじると失敗する。しかし、いじらないと失敗することもある。ああ、釣り合いは難しい。

( 2013. 10 初出 )