手足操法
手足は鍼灸で使われる経絡(けいらく)の末端で、古代中国で発見され、今日に伝えられています。今もそれは役立っているわけで、整体にも応用ができるかどうかを考えてみたい。
唇がしびれる
上唇の左側にしびれたような、突っ張ったような奇妙な感覚があり、気持ちが悪いという女性が来られました。Aさんとしておきます。顔面神経の問題かと思って初めは顔面の歪みを整えて行きました。しかし芳しい効果がありません。色々とやってみても改善が見られないので、どこか怪我をしたとか打ったとか、そういう異常はありませんかと聞いてみると、実は1週間ほど前にクルマに足を轢(ひ)かれたんですとおっしゃる。
夫の運転する車で買い物に出かけた。駐車場で降りるときにモタモタして、足の先を夫のクルマに轢かれてしまった。さいわい厚いウォーキング靴を履いていたので傷はなかった。でも大変に痛かった。そういう話しでした。轢かれたままの足の上から車輪をよけるために夫が車を元に戻したので、二度轢かれたというおまけ付きです。笑い話では済みません。
一般に打撲とか何かの怪我があると、その影響がずっと後まで残ることが多いのは事実です。数十年前の事故がしつこく影響を及ぼしている例は枚挙にいとまがありません。それかもしれないと考えて左足の指を一本ずつ整えて行きました。さらに顔面の歪みの残っているところも調整しました。さて、どうですかと尋ねたところAさんは、妙な感覚がほとんど消えたと言われるのです。
手・足と頭・胸
唇がしびれるという症状は、そんなにあるものでなく、わりあい珍しいといえます。その珍しいケースが色々なことをしてみても改善せず、足の指を整えたら改善したわけです。これは大きなヒントになります。足の指が顔面にまで大変な影響を与えていることが明確になったからです。それならAさんの場合だけでなく、足指に問題が潜んでいれば上部にも影響が及んでいると考えてよいのではないだろうか。
考えてみれば手指も足指も、中国医学でいう経絡(けいらく)の端に当たります。手の先に6本の経絡が走っているのと同じように、足からも6本の経絡が走っています。古代の中国人がすでに手指・足指の重要性に気づき、それを体系化していたと考えることができますね。
どことどことが経絡としてつながっているのか、経絡の詳細を調べてみましょう。
A(手の陽) 手と頭部→大腸経、三焦経、小腸経
B(足の陽) 足と頭部→胃経、胆経、膀胱経
C(手の陰) 手と胸部→心経、心包経、肺経
D(足の陰) 足と胸部→脾経、肝経、腎経
このように分かれています。AとBのそれぞれのスジは頭部を介してつながりを持っています。例えば「三焦経」(さんしょうけい)というスジは手の薬指から始まり、眉毛の外側の端である「糸竹空」(しちくくう)というツボで終わっていますが、そのすぐ近くの目尻にある「瞳子りょう」(どうしりょう)というツボから「胆経」(たんけい)のスジが始まり、足の第4趾に終わっています。ですから三焦経と胆経は頭部を介してつながりを持っているといえます。ややこしいですか。ややこしければ、ゆっくり読み直してみてください。
同じようにCとDは胸部を介してつながりを持っています。これで考えるかぎり、手・足・頭・胸の4個所を整えればよいのでしょう。なぜこの4個所の組み合わせになっているのかが興味を惹くところですね。また頭部と胸部は仲介点になっているだけで、やはり手と足とが重要なのかもしれません。
ちょうど三つずつの四組に分かれているのはなぜなのか。陰陽の組み合わせから哲学的に発想されたものだから整然としているのか、それとも古代の実証研究の結論として出てきたものか、私には分かりません。でも、ここに何か大きなヒントが隠れているように感じられます。
手足の指を整えると
Aさんの操法をしたあと、手足の指を整えれば全身の状態がよくなるのではないか、そういう仮説を立てて操法をするようになりました。実際、手指でも足趾(あしゆび)でも効果が確認できています。単に効果が感じられるだけでなく、これまでの操法では効果があまり期待できないような状態の人でも、驚くほど明確な効果が出ることがありました。想像以上の効果が出ているといえるでしょう。
具体的にどのような操法をすればいいのか。その詳細を書こうとしたのですが、すべてが私の中で発展中であり、しかも指の操法、とりわけ足趾の操法は微妙を極めているだけに、操法をしながら説明していかないと伝えるのがなかなか難しい。この操法を組み入れることで、操法全体の組立てに深みと広がりが出てくるのは間違いないといえますので、講座やセミナーに来られた方々にぜひお伝えしたいと思っています。
(2013. 08 初出)