人為のズレ
「肩や膝・肘を傷めている」という滋賀県の女性が来られました。詳しいことをお聞きしてみると、「下手な整体屋」で羽交い絞め(はがいじめ)にして身体をぐいぐいやられ、その直後から胸と肩甲骨の内側の2箇所が痛いんだそうです。同じところが前と後ろと痛いとおっしゃいます。
「下手な整体屋」
「下手な整体屋」などと言われるとドキッとしてしまいますね。あなたは下手でないのか、と言われると、今もうまく扱えない場合が色々ありまして、まだまだ未熟、というか、お世辞にも上手とはいえないことがある。どこまで行っても整体は難しいなあ、と溜め息が出るケースもあるわけです。うちのカミサンに言わせると、メシの最中まで何か考えているらしく、ご飯どきくらい考えるのを止めたらどうなの、と叱られることもしばしば。
まあこの話はさて措くとして。同じ場所が前も後ろも痛いというようなケースはあまり見かけません。身体の前面と背面とは筋肉の働きが違いますから、同時に痛いということは、あまりないわけです。ところが人為的に妙な力をかけると、そういうことがある。整体・カイロ・整骨院などできついことをされて痛くなったという話はよく聞きます。
肋骨が下がっている
胸の上の方が痛いらしいので、その辺りを探ってみますと、右の肋骨の2番、つまり右側の上から2番目の肋骨が下がっています。左と右をくらべてみると、右が数ミリ下がっているのが分かります。その下がっている肋骨がひどく傷むようです。呼吸も浅くなって、息苦しいという。これはひどい。こんな状態になってもう2か月は経っているそうです。これならX線で撮影すれば、肋骨の位置が左右で違っているのが写るでしょう。痛いのも無理はありませんし呼吸が浅くなっているのも頷(うなず)けます。
こういう妙なゆがみは、なかなか簡単にはとれにくいものです。しかも操体法など色々なことをやれば自然に消えていくというものでもない。人為的なゆがみは人為的にとらないと治りにくいことが多いという印象を持っています。しかも、人為的に出る症状は、場所がどこに生じるかまったく分かりません。妙なところに出ますから、パターン化することもできません。あの場合この場合でどう扱うか考えなくてはなりません。足裏マッサージでずれてしまったという話を以前に書きましたが、また同じような症状の(場所はまったく違いますが)人がやって来られたことになります。
肋骨の位置を正す
肋骨が大きく下がっているのをどうすれば直せるか。まずは肋骨全体にかすかに上向きの圧をかけて、全体をゆるめます。横向きに寝かせて、肋骨の全体を軽く上向きに押さえていれば、自然に下がりが修正されてきます。次は下がっている肋骨に上方から少し力をかけてすっと力を抜くという操作を繰り返します。これでつっぱっていた肋骨がかなり緩んできます。そうして右腕を斜め上に持ってきてやや内にひねり、ぐっと引く。こういうのは、書けば簡単ですけれど、こちらは内心では必死です。祈るような気持ちというのでしょうか。幸い、少しずつ下がりが調整され、楽になってきたとおっしゃいます。
でも完全にもとの位置に戻るまでは行きませんでした。あまり何度も繰り返すと肩を痛めてしまう可能性があるので、まずまずのところで止めておかなければなりません。あとは肘と膝を直し、全体を整えて終わりました。ここまで 30分あまり。数日後この方からメールが来て「おかげさまで痛みがほとんどなくなりました」と書いてありました。まずは良かった。でも人為的な場合は、なかなか難しいというのが本音です。いつもうまく行くとは限りません。
整体屋さんも、カイロ屋さんも、整骨院さんも、強い力をかけることはできるだけ避けていただきたい。万一の場合に事故を起こせば、大変な痛みと苦しみを残してしまうことになるのですから。私自身も「下手な整体屋」と言われないよう、ますます精進しなければなりません。やはり整体はどこまで行っても難しい。
( 2008. 10 初出 )