肋骨(ろっこつ)がズレる
肋骨のズレている人が多いといったら驚かれるでしょうか。肋骨は少しズレても痛くもかゆくもない。本人もズレていることなど気づかない場合がほとんどです。
肩が前に出て肋骨がずりおちる
「肋骨がズレる」という題を読んでどう思われたでしょう。そんなことになったら大変だろうな、と思われたでしょうか。あるいは、肋骨なんて作り付けになっている骨ではないのだろうか、肋骨がずれることがあるんだろうか、といぶかしく思われた方もあるかもしれません。
ある時、旅先の民宿でこんなことがありました。泊り客がいろりを取り囲んで食事をし、お国自慢などに花が咲いていました。鹿児島から来たというご夫婦の女性のほうが ―― このごろは「奥様」とか「奥さん」という言葉がなんだか使いづらい雰囲気ですけれど、こんな場合はどういえばいいんでしょうね ―― からだをつらそうにしていらっしゃる。いつもの癖で私は、この人は痩せているから、からだのゆがみが分かりやすいなあ、などと考えていました。
やはりおせっかいな心が働いて、ついつい、しんどそうにしていらっしゃるけれど、大丈夫ですか、というようなことを聞いてしまいました。その女の方は、肩がこるし、いろいろ病気を抱えているし、たいへんなんですよ、とおっしゃる。私は整体をしているんですが、お見受けしたところ、背骨にだいぶゆがみがあるように思います、と余計なことを言ってしまった。そうすると、後でちょっと見てくださいますか、というようなことになりました。拝見してみると、この人は肩が前に出て肋骨がおおかたズレていたんです。それがこの方の大きな特徴でした。肩が前にせり出している人は、肋骨や鎖骨のズレていることが多い。
胸骨のはたを触ってみると、大方が痛いという。背中の骨をさわって、ともかくズレを直し、どこかしっかりしたところで見てもらった方がいいですよ、とお勧めしました。翌朝は、夕べはいつもと違ってよく眠れました、とお礼をいわれる。クルマで出発されるのをお見送りしました。あの方は、今はよくなられただろうか。
腰痛? 実は胸痛
どんな時に肋骨のズレが分かるか。例をあげましょう。腰が痛いといって来られた男性があるとしましょう。彼は、このあたりが痛くて、と腰の上を指差します。そこで、周辺をあちこちさわってみると、腰痛の症状とはどうも違う。どうやら肋骨の下のほうが痛いらしい。そこで、その骨の上をたどって押えてみました。すると、まるくなっている肋骨にそってずっと痛みが続いている。これは肋骨です。
その骨をずっとたどっていくと、まわりまわって胸のところまで痛い。いや、押えなければ少しも痛くないんです。ところが指先で押えていくと、痛みが骨沿いにずっとあって、胸まで続いているわけです。肋骨と胸の真ん中にある胸骨とは関節でつながっています。こんなところにも関節があるというと、驚かれるでしょうが、試しに胸の真ん中にある胸骨をおさえて、ひじをまげて背中の方に突き出してみてください。胸のところでわずかに骨が動くことがわかるでしょう。こんなところにも小さな関節があることがお分かりになりましたか。
肋骨を正すと痛みが消える
この関節を正すのは、必ずしも簡単でない場合があります。大体は、その骨と関連している椎骨を正せばいいんですけれど、椎骨に異常がないことがあります。こんな時は、肋骨と胸骨のつなぎ目を正さなければなりません。ところが肥えている人の場合、どれがどれだか骨の位置がよくわからないことが多い。こんな時は見当をつけて、そのあたりを緩めるしかない。あるいは、胸骨の横を押さえて腕をひっぱるとはまる場合があります。
この男性の場合は、胸骨の横を正すことで骨の痛みがなくなりました。腰痛のはずが、胸の真ん中が悪かったという、一見きみょうな結果で終わりました。でも、こういう例は実はすくなくありません。胸と肋骨との関節がずれていて、肩こりがなおらないという場合も少なくないようです。肩こりは、場合によってやっかいなものです。
胸骨と肋骨との関節がうまく調整できない時はどうしたらいいか。肩をゆるめてからかかればいいと思います。肩が硬いと胸もおなかも硬くなっていることが珍しくありません。肩は上半身のかなめになっています。
( 2006. 11 初出 )