胸骨を上げる
自分は姿勢が悪いとひそかに悩んでいる人が多い。簡単な対処法はないものか、考えてみましょう。
姿勢よくしなさい!
子どもの頃を含めて、次のような言い方を何度となく聞いてきた人が多いことでしょう。いわく ――。
胸を張りなさい。
背筋を伸ばしてみましょう。
肛門を締めてください。
肩の緊張を緩めて腰を安定させましょう。
頸を後ろに引いて・・・。
仙骨を締めてやりましょう。
耳を肩と一直線に・・・。
丹田に気を込めて・・・。
下腹に重心をおいて・・・。
これらはいずれも姿勢を正すのに使われる言い方です。静止姿勢でも歩行姿勢でも同じようなことが言われますね。これは言い換えると、これとは逆の姿勢をとっている人が多い証拠でもあります。背が丸くなって胸が縮んでいる。肛門がだらりと開いている。肩が緊張し腰がふらついている。頸が前に突き出ている。仙骨が上に返っている。耳が肩よりもずっと前に来ている。丹田に気がこもっていない。下腹に重心が来ていない・・・。
こう言われると、どれも何だか元気のない、ピシッとしていない状態に見えてきます。でも、これだけ色々あると、全部を改善することなどとても出来そうにないかもしれません。まあ、しょうがないなあ、と思ってしまう人もいるでしょう。いっそ何か一つですべてを含んでいるような簡単な言い方はないものでしょうか。
胸骨を上げる
そう思っていたら、「からだほぐし教室」の常連でヨーガをやっているMさんが師匠から聞いてきた言葉だといって、タイトルの言葉を教えてくださったわけです。「胸骨を挙げる」。これを見てどうするのかピンと来た人はけっこうホネ通でしょう。胸骨とは喉(のど)から鳩尾(みぞおち)まで、胸の真ん中にある縦長の骨のことです。
胸骨を挙げるといっても、文字どおり胸骨を無理やり持ち上げるわけではありません。胸骨を上に挙げるという意識になると、自然に胸が反って胸骨が挙がるでしょう。そのことを指しています。Mさんは、胸骨を挙げると意識すればよい、姿勢を正すために言われる他の色々な表現とくらべて、はるかにこの方が分かりやすく実用的だ、と紹介してくださいました。なるほど、その通りです。
肋骨を上げる
ところで「胸骨を挙げる」という注意が有効なのは、現実の状態として、胸骨がうまく挙がっていない状態があるからです。整体をしていても、胸骨が下がり、つれて肋骨も下がっている人が実に多いことが分かります。
肋骨が下がると言われても、どのような状態なのか分からない人が多いと思います。下がり方にも少し違いがあるようですが、例えば、右肩が下がっている人は右の肋骨が下がっています。それも肋骨全体が下がるというより、肋骨の前部が下がっている。背中の筋肉はぴんぴんに張って、お腹の筋肉が縮んでいるという状態です。当然肋骨も下がってしまいます。
こうなると胸が下に圧迫されますから、横隔膜の動きが小さくなって息が浅くなり、呼吸がスムーズでなくなったりします。呼吸が苦しいと訴える人は、肋骨が下がっています。その他、肩が痛いとか、四十肩とかの人も肋骨が下がっていることが多い。
肋骨を挙げるのは、どうすればいいか。受け手は横向きに寝て、操者は背中側に坐ります。操者は両手を肋骨の両側(つまり背側と腹側)にあて、気持ちだけ上方向に押すようにします。強い力で無理に押し上げようとしてはいけません。そんなことをすると、後で胸の上部が痛くなったりします。ほんの気持ちだけで上方向(つまり肩方向)に上がっていきますから、強い力は不要です。これを90秒間つづけるだけ。反対側も同じようにします。つまり右側を挙げたら、左側も挙げます。片方だけでいいように思いますけれど、両方しないと、やはり後で具合が悪い。どこかが痛くなったりしますから、かならず両方おなじように押すこと。そして強い力をかけないこと。これがポイントです。
こうして肋骨の下がりを修正しておくと、いっそう胸骨も挙がりやすくなることでしょう。お試しください。
( 2009. 07 初出 )