「活元」 = 意思で起こす非随意運動

「活元」という運動法があります。非随意運動を意思の力で起こそうという試みです。

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教会の懺悔室(ハンガリー

非随意運動

からだには意思と関係なく起きる動きがいろいろあります。例えば「あくび」、「しゃっくり」、「せき」、「さむいぼ」(=鳥肌が立つ)など。これらは、出そうと思って出る運動ではありませんから非随意運動といわれます。

「あくび」や「さむいぼ」には、酸欠とか急な寒さとか、それなりの理由があるでしょう。からだの防御反応だと言えます。しかし非随意運動には「こむらがえり」(=けいれん)や「ふるえ」とかもあります。これらの場合は防御反応だと言えるのかどうか。ただ、「風邪の効用」(野口晴哉)という話もあります。風邪のような好ましくないと思われる症状でも身体にとって意味があるというのですから、「けいれん」や「ふるえ」にも意味があるのかもしれません。

非随意運動を意思の力で

いずれにしても、こうした動きは意思と無関係で、自分の意思のとおりの動き方をしているわけではありません。では、動きそのものは意思と無関係でも、全体としてそのような動きをしようという意思があると、どうなるか。どんなあくびをするかは自分の意思で決められなくても、あくびをすることそのものは、自分の意思で決めるような具合にはいかないものだろうか。あ、何だか難しい話しになりそうですか? 非随意運動を意思で起こすことはできないだろうか、ということです。

日本整体の集大成をなし遂げた晩年の野口晴哉(はるちか)さんが、中心においていたのは「活元(かつげん)」と呼ぶ、非随意運動を意思で活性化させる運動でした。もしも運動(エクササイズ)という言葉がその人の意思による身体の動きだとすれば、本当は運動と呼ぶのがふさわしくないかもしれません。その人の意思とは無関係に身体が動くからです。具体的なやり方を『整体入門』(ちくま文庫)から引用しつつ、まとめてみましょう。

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中国の切り紙

活元のやり方

1. 邪気の吐出。「両手で鳩尾を押えてそうして息を吐く。老廃の気を全部吐き出すような気持ちで、体をこごめるようにして吐く。」これを三回。

2. 背骨を捻る。「正座して自分の背骨を見るように、縮んでいる上体を伸ばし、左に捻り、弛めてまた右に捻る。急に力を抜いて戻す。 これを左右交互に、七回ずつ行なう。」

3. 吐きながら 「徐々に息を吐きながら、拇指をにぎりしめ腕を上げ、体をうしろへ反らしてゆく。奥歯をかみしめ、首から背中に力をギューッと入れるようにして、入れ切って急に力を抜く。」 これを三回。「息を吐きながらやる。それが特殊なやり方なのです。こうすると背骨に運動の起こるような必要が出てくるのです。」

4. 運動が出る。「手を上向きに膝の上におき、目をつぶります。目をつぶって首を垂れる。そして自分の背骨に息を吸い込むような、背骨で呼吸するようなつもりでいる。すると少しずつ体が動くような感じがして、やがて動き出してきます。あとはそのまま何もしない。ポカーンとして体を自然に任せきる。」

5. 終わったら 「終わったら瞑目したままで、しばらくポカンとしております。一分でも二分でもよい。」 「目を片目ずつ開けます。目を開けたら、もう一回静かに息をお腹に吸い込み、耐えてからゆっくり吐きます。これで終わりです。」

以上は概略ですから、詳しくはぜひ『整体入門』を読んで下さい。写真もあります。

丘の上の遺跡(ブダペスト)

瞑想法として

「活元」の説明はこれだけです。こうして出てくる運動は「あくび」や「さむいぼ」のように身体にとってプラスの意味のある動きです。全体としてからだの歪みや硬さを改善しようとする動きであるように感じられます。「けいれん」とか「ふるえ」とかの不快な感じはなく、やっていて気持ちのいい動きです。

でも私の感じ方からすると、このような修正運動としてより、「活元」を瞑想法として使うのがいいんじゃないか、と思っているんです。瞑想を試みたことのある人ならだれでも分かることですけれど、つぎつぎと湧いてくる雑念をどうするかという問題にぶつかります。そのとき、マントラ(呪文)とか蝋燭の炎とかのような対象を設定しておくことが普通に行われていますね。これは瞑想の項目にも書いておいた通りです。

ところがこの場合には、対象になっているものをつねに意識においておくことが必要になります。マントラをとなえるなら、マントラをとなえる行為を続けなければならない。ところが、活元のばあいはそんな必要がありません。自分のからだの動きがマントラの代わりになるからです。ですから、対象を持続させるという意思の働きがなくて済む。これが実はかなり大きなことではないかと思うんです。

つまり、ただ座っているだけで瞑想ができる、というのが活元の素晴らしいところです。一度お試しください。

( 2007. 09 改訂 )