愉気の実際
天才と称えられる野口晴哉(はるちか)さんが、整体の中心においた技法は「愉気(ゆき)」でした。私も折に触れて使ってきました。近ごろは、これを再評価することが必要だな、と感じています。
全身が痛くだるい
一人は60歳くらいの男性Oさん。拝見すると、からだ中がゆがみの固まりといった有様です。どこを触っても「痛だるいです」とおっしゃる。これは大変な人が来たわい、と内心で思っていました(朱鯨亭に来られる人は大変な人ばかりともいえますが、その中でもとりわけ大変だ)。しばらく続けるうちに「痛だるい」という言葉がだんだん少なくなってきました。ご本人も、次回の予約が待ち遠しいとうれしいことを言ってくださいます。それでも、首を後ろに曲げた時に強い不快感があって、どうしても取れない。
先日こられた時には、「痛だるい」という感覚がかなり減ってきたとおっしゃる。しかし首の違和感だけは続いている。どうしたらいいか。そこで愉気を使ってみることにしました。後頭部にやや手のひらを離してかざし、5分ほど愉気を続けました。するといままで半世紀にわたって続いてきた違和感がすっと消えた。これなら、もっともっと積極的に「愉気」を使うべきではないか、と考えたわけです。
頭痛が消えない
もう一人は40代の女性Mさん。この方は、主に頭痛を解決したいと来られていました。普通、頭痛は首の骨の狂いが原因ですから、肩をゆるめ、首の狂いを正すことで解決できます。Mさんの頭痛も確かにこのような方法でよくなりはするのですけれど、しばらくするとまた再発する。どうもすっきりしない、という経過を繰り返していました。先日来られた時は、首を左にひねると右側になんだか違和感が残る、どうしてもこれが取れないとおっしゃいます。そこで違和感がとれない場所、つまり耳の斜め上くらいのところを触ってみました。すると筋状にやや盛り上がりが感じられます。場所からしてこれは、後頭骨と側頭骨のつなぎ目です。
そこで、この部分に直接手をあてて愉気をしました。やはり5分ほど続けたあと、どうなったかとお聞きしてみると、違和感がとれたとのこと。すっきりしたと喜んで帰られました。でもまた戻っている可能性もあります。2日後の昨夜、電話でお聞きしてみると、歯の治療を受けていて、ちょっとおかしい時もあったが、いまは問題ありません、とおっしゃる。しかも右の目が何か見えにくい感じだったのが改善しているという。これでまずは安心です。
頭蓋骨の調整
考えてみると、このお二人の例はいずれも頭蓋骨のゆがみが愉気で正された例です。O さんの場合は生れ落ちる時に後頭骨と頚椎のつながり部分がずれたのではないかと思われます。Mさんの場合は頭蓋骨の縫合が何らかの原因でずれていたのでしょう。いずれも頭蓋骨の専門的な操作法があるようですが、それが愉気で解決したと感じられます。
接触と非接触はどう違うか
以上のような話しを「からだほぐし教室」でしましたら、手をからだに接触させて愉気をするのと、離して愉気をするのとどう違うのか、という質問が出ました。これはどちらでも大きな違いがないように感じます。ただ、Mさんの例ではズレのある位置がはっきりしているので、触って愉気しましたし、O さんの例ではズレがあるとしても、正確にどの位置にあるのかはっきりしませんから、離してそのあたり一帯を愉気したわけです。愉気をする立場からすれば、離してする方が手のひらの感覚がはっきりしていて、よく感じられるのは事実です。でも接触して愉気していても、びりびりと痛みを感じるような場合がありますし、それなりに感じるものがあります。
また、愉気と簡単に言っても素人と熟練者では効果が違うのではないか、という質問も出ましたが、野口さんは、愉気は誰でもできる、技術ではない、とはっきり述べています。皆さんも野口晴哉さんの『整体入門』(ちくま文庫)を参考にして試して見られたらいかがでしょうか。硬いところが愉気で結構ゆるみますよ。