打撲は怖い
おかしな症状
大転子、つまり太ももの付け根の横にあるグリッとした骨、が痛いという方が来られました。昨日のことです。珍しい訴えで、余り聞きません。そして大腿の下の方にもしびれ感があるという。大転子のあたりといっても、前も後ろもありますし、どのあたりですか、と尋ねてみると、左側の大転子から少し後ろ下側あたりを押すと圧痛があるという。
普通は大腿がしびれるといえば、骨盤が傾いているために「坐骨神経痛」と呼ぶ状態になっていることが多いので、骨盤、ひいては股関節に何か異常があるのかと考えて色々やってみました。骨盤を整える操法を色々やったわけです。しかし一向に改善しません。
何なんだ、これは・・・。こういうややこしい例は、何か事故であることが多い。そこで、交通事故か何かに会っていませんか、と尋ねてみても、いや、それはありません、という答え。
理解しにくい症状がある時は、交通事故か、あるいはどこかを打撲したか、そんなことが隠れている場合が多いので、尋ねたわけですが、否定されるとどうしようもない。
しかし私もしつこいようですが、さらに尋ねます。
── 交通事故ではなくても、最近どこか打ったことはありませんか。
── そう言えば、1週間ほど前に机で脚を打ちました。
それだ!
── どこらあたりを打ったんですか。
── ええっと、太ももの前あたり。膝の上のこの辺です。
── あ、ここですか。それで分かりました。なるほどねえ。
坐骨が動いた
どういうことか、少し解説しましょう。この女性Eさんは、自宅の食卓の角で太ももの前を思い切り打ったと言われます。そういうことって、ありますね。腹が立つけれど、どこに文句をいったらいいのやら。誰からも相手にしてもらえないし、痛いし、本当に情けない。
で、どうなったかといいますと、太ももの前を打ったために、太ももの骨、つまり大腿骨が瞬間的に後方へ押された。そのために股関節のところで腸骨を後ろへ押し出すことになった。その結果、腸骨の後ろにある坐骨がわずか後ろへ移動しているはずです。
うつ伏せになってもらって坐骨を調べると案の定、右の坐骨と比べて左のが少し出っ張っています。骨盤を調べる時に、坐骨を調べなかったために、見逃していたわけです。骨盤には何の症状も出ていませんでした。
左の坐骨と右の腸骨の後ろをそっと押えて、そのまま微圧をかけ続けました。こういう事故による変位は、直接に微圧をかけないと、なかなか動きません。力で動いたものは、たとえ微妙な力といえども、力でないと動かないのかもしれません。
ほんの2分ほどそうしていました。
── はい、では立ってみてください。
── ああ、かなり楽になっています。
── かなりというのは、まだ残っているということですね。
── はい、まだ少し。
という具合で、ふたたび同じことを繰り返しました。そして立ってもらうともうほとんどない、という程度に回復しました。ドンッと当たった打ち身の症状が残っていることでしょうから、わずかは何かが残るかもしれません。
打った場所が重要
このように打撲による後遺症は怖い。よくよくしつこく探さないと、本人に原因の自覚がないまま、何だか原因不明の痛みがあるということで終わってしまいます。施術する方が、複雑な、あるいは珍しい症状を見かけた時は、打撲がないかよくよく、しつこく尋ねてみることが必要です。秘訣は、打ちどころがどこだったか、どんな状況だったかを正確に聞き出すことです。
ところで、しつこいようですけれど、こういう打撲の例が『正體術矯正法』にはいくつも出てきます。今も同じようなことが続いているわけです。この本は古本で探しても結構な値段ですから、読んでくださいとは申しませんが、施術家の方々がしっかり読みこめば、それなりの成果はあるはずです。
( 2012. 12 初出 )