ボールが投げられない

ボールが投げられない、といって来られる人が珍しくありません。肩の関節がズレている場合が多く、ズレだけなら短時間で解決します。

肩が狂っていただけ

肩の関節が前にズレている人がいます。「脱臼」(だっきゅう)というほどではないけれど、関節が少し前にズレている。痛くてボールが投げられず、うまく腕が上げられません(これについて、かつて「球が投げられない」という項目を書きました)。ズレを直せばボールが投げられるようになります。つまりこの場合は肩関節の「前ズレ」が問題になります。

hanabi
溝端久枝さん提供

腕が上がらずボールが投げられない状況でも、ズレではなく肩の周りの筋肉や組織がとても硬くなっている場合があります。脇の下をつかんでみると、カチカチに固まっている 【注1】。これは「縮み」としておきましょう。「ズレ」のある場合と、周辺がたいへん硬くなって「脇の縮み」がある場合とで状況が違います。

ボールが投げられず動かすとたいへん痛い。こんな状況になると、まだ若いのにもう「四十肩」なのかと心配する人がいるかもしれません。この場合、肩の関節の前の出っ張ったところを押さえると痛い。ズレがあるために、関節の前にある組織が硬くなって、痛みを招いているわけです。この場合は脇の下を調べてみても、少しは硬くなっている部分があるかもしれませんが、「四十肩」のような非常に硬くなった大きな「縮み」はありません。

「前ズレ」を起こしていると、はっきり判断するにはどこを見ればいいかといいますと、肩関節の後ろです。ここは肩甲骨(古い言い方だと「かいがら骨」)の上端があり、その中に「肩関節が埋もれてしまっている感じ」になっていれば前ズレを起こしている可能性が高い。そうして「関節の前を押さえると痛い」。この両方がそろっていれば、前ズレと判断して間違いではありません。

では脱臼しかかってズレているような肩をどうすればいいのか。「球が・・」の項目に書いたように、だれかに担いでもらって、前後からぐっと押してもらうのも一つの方法ですが、それだけでは解決が難しい場合もあります。また、たとえ解決したように見えても、すぐに元の木阿弥になってしまうかもしれません。鎖骨を押さえて回す方法 【注2】 もありますが、この方法を使おうとすると、たいへん痛がることが多い。こんな時は誰か(Aさんとしておきます)の手を借りましょう。

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溝端久枝さん提供

肩の前を緩める

Aさんに痛い肩の斜め後ろに座ってもらいます。あなたの肩に近い側にあるAさんの四本指を肩の前の痛い部分に、親指を肩の後ろにあてて、ぐっと肩の前を手前に引くように押さえてもらいます。そしてAさんの反対側の手であなたの腕を持って肩をぐるぐる回してもらう。腕は肘(ひじ)のところで折り曲げた感じです。Aさんはあなたの上腕 【注3】 の肘のすぐ上くらいのところを持って回せばいいわけです。前方への回転を3回すれば今度は後方への回転を3回というようにして、しばらく続けます。すると肩のずれが少しずつ修正されていきます。

やがて、自分の肩がもう痛くないという状態になれば、終わりです。もう痛くないだけでなく、ボールも投げられるようになっているかどうか試してみましょう。ボールを投げるのがまだ無理なようだったら、もう少し続けます。ボールが投げられないという悩みを持っていない人でも、同じような腕が上がりにくい状況があるなら、試しにやってみる価値はあります。

ただしこれだけで終わると、同じことを繰り返す可能性が高い。後は鎖骨を押さえて肩を回す方法で、鎖骨と肩関節との位置関係を修正しておきます。

【注1】 「縮み」について私は、坂本恒夫さんの説に従って一応「癒着」と考えていました。しかし「癒着」という考え方が正しいかどうかは微妙なところがあります。癒着という言葉は、比喩として使う場合でも「官民癒着」というように完全にくっついて外れないというイメージを伴います。でも、脇の下がカチカチに固まっている例では「癒着」と考えなくても解決できる場合がほとんどで、肩の周りが非常に硬くなっていると考えればいいと今は感じています。

【注2】 これについては大橋正敏さんが書かれた「寂動正體」(じゃくどうせいたい)のホームページに、詳しい説明がありますので、それをお読みください。

【注3】 「上腕」は肘(ひじ)から上です。肘から下は「前腕」。