手・腕・肩の関係

手と肩、腕と肩のあいだには密接で微妙な関係があります。手や腕が硬くなると、肩がこってくる、という関係です。

akaikutsu
赤い靴はいて(横浜)

腕を緩めると肩が下がる

月に一度は調整に来るNさん。その左腕を緩めました(緩める方法については →筋膜伸ばし)。上腕と前腕の両方を緩めて、後ろからNさんの姿を見ると、右肩がえらく上がってアンバランスになっています。あれっ、こんなに傾いていたかな、と思って、よく見るのですが、始めた時にこんなに傾いていたはずはない。どうなったのだろうか。

しばらく呆然と見ていました。そして気づいたのは、左腕を緩めたから左の肩が下がったことです。一般に肩は上がっている方に問題があります。よく「右肩が下がっている」などと表現する人がありますが、そのように言わず「左肩が上がっている」などと表現した方が正確です。肩に緊張がある側が上がるからです。ずばりと言えば、上がっている側の肩に問題がある。

Nさんの両肩に緊張があって、少し「イカリ肩」傾向になっていた。そこで左の腕を緩めると、左の肩が下がって、右肩だけが上がっている状態になった、というのが事実だったわけです。その人の状態によって違うはずですが、普通はNさんのように劇的に肩が下がることはないと思います。ですから、私は気付かなかった。でも思い返してみると、腕を今回のやり方ではなく、共鳴で緩めた時にも同じような現象が起きたことがあると思い出しました。

kanteibyo
関帝廟(横浜中華街)

肩こりは腕を緩めよ

そうすると、二つの原則が見えてきます。つまり、腕を緩めるときは、肩が上がっている側から始めるという原則です。それで左右の両肩の高さが揃えば、それで止めればよい。そうでなければ、反対側の腕も緩める必要があることになります。もう一つの原則は、肩こりについてです。足首など他にもいくつか要因がありますが、肩こりは、まずは腕を緩めればよいという原則です。

Nさんの場合は、どうなったか。上がったままになっていた右側の腕を緩めると、みごとに右の肩が下がって両肩が揃いました。仕事が少し忙しくなってきたとおっしゃっていましたから、力を入れる手作業が増えて、腕の緊張が高まっていたと考えられます。もっと慢性的に両腕が緊張して硬くなっている人なら、こうは行かなかったかもしれません。

微妙な塩梅といいますか、施術の手加減というような話題でしたが、やっている側からすると、大変に興味深くて、Nさんに話してみたら、そうですか、何だか変だな、と感じていたんですよ、という返事が帰ってきました。そうでしょうとも。あそこで放置したらえらいことになっていたかもしれません。肩の違いだけで済めばいいようなものですが、おそらく肩こりがひどくなるでしょうし、場合によっては腰痛を起こす可能性もありました。どこまでも細心の注意を要するのが整体です。

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関帝廟(横浜中華街)

突き指の跡が原因

次は指と肩の関係です。先日こられた方を仮にAさんとしておきましょう。数か月前にもAさんは来ています。何度か足を運んで、その時は爽快になったそうでしたが、それから数か月を経て、また次第におかしくなって来たという。肩の高さが左右で違っているんです。コリが出やすいはずです。

例のごとく腕をすっかり緩めて行ったのですけれど、どうもイマイチ改善しない。そこで、どこか手の指におかしいところはないか、と聞いてみました。手指がおかしいために、ずうっと肩まで引っ張って、それが原因で肩がこるという人がけっこういるからです。

案の定、左の親指を高校の時にバスケで突き指して、今も少し痛む時があるという。親指の関節を触ってみますと、確かに突き指の痕跡やら、ねじれがあるようです。そこでこれを、関節の動きの悪い方向と反対の方向へ気持ちだけ動かすつもりで愉気をしてみました。すると指の形が正常に近くなり、動きもほぼ改善しました。

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氷川丸(横浜港)

古傷が後々まで響く

さて、問題は肩です。ところが肩を少し離れてよくみると、左右がそろっています。

──左右がそろっていますね。

──さっき指をやってもらった時に、肩が下がった気がしました。

──やっぱり。

というやりとりをして、左親指を整えただけで、上がっていた左肩が下がったのを確認しました。

こういう人が時々います。手指の歪みが原因で肩の状態が悪くなっているんですね。それも高校時代といいますから、もう二十年ばかり前のことです。そんな昔の指関節の歪みが後々まで影響するのだから恐ろしい。なかでも、小指の異常を一番よくみかけるように思います。

突き指は随分前のものでも、やはり影響するようです。古い突き指でも改善できますから、諦めないことが肝心です。手指に故障を抱えたまま放置していると、いつか何かの不都合が生じるかもしれません。少々のことだと放っておかず、対策をたてた方がよいと思います。

( 2012. 05 初出 )