鎖骨と身体の捻れ

鎖骨という骨は普段あまり重要視されていないように見えます。しかし、とても大切な骨らしく、ここに身体の捻れが現れます。

saraca
神聖なサラカ

樹上動物に鎖骨がある

鎖骨のことが気になって調べてみました。肩の内側に左右二本ある骨です。中央は胸骨につながっています。大して力を出して働いてくれる風でもないので、重要視されていないのかもしれませんが、腕や肩のことを考える時には欠かせない骨です。

鎖骨の動きが悪いと、手の指の動きが悪くなったり肩が凝ったり肩が痛くなったりと、色々な働きをしている骨のようですが、なぜ「鎖骨」という名前がついているのか。ウィキペディア「鎖骨」の項目を見ると、

──古代中国で脱走を防ぐために囚人の体に穴を空けて鎖を通した場所がこの部位であったことに由来する[要出典]。

とあります。いささか残酷な語源ですが、[要出典]とあるので、怪しい解釈なのかもしれません。こんなところに鎖を通されたらたまったものではありませんからね。

語源はともかく鎖骨は、いささか気になる骨です。草原を走り回る動物には鎖骨がないか、あっても痕跡ほどだそうです。一方、前足でものを掴(つか)むことができて木登りができる動物には鎖骨が発達しているんだという。森林に住んで樹上に生活する動物は、樹の幹などものを掴んだり、鎖骨を動かして両手を近づける動作をする。リスにも鎖骨があると思うと、ものを掴む動作が何だかとても可愛いく思えてきます。その必要がない動物、草原を走るだけの動物では鎖骨の必要がなくなって退化している。

この鎖骨を両方の手で触ってみます。誰かの後ろに立って、左の鎖骨は左手で、右の鎖骨は右手で触ってみます。すると、左右の鎖骨の出っ張り具合が違うことが多い。【たいていは左の方が凹んで、右の方が出っ張っている】。なぜ左右差があるのか以前から気になっていましたが、形から判断して身体が全体に捻(ねじ)れていることと関係があるだろうと思われます。

yukka
ユッカの一種

重心変更法

そこで試しに、こういう状態の人に「重心変更法」を施してみましょうか。その前に、自分の重心がどちらにあるかを判断しておきたい。そうでないと、どちらに変えればいいかが分かりませんから。重心の位置を判断する方法はいろいろとあります。ただ、決定的な方法となると難しい。さまざまな方面から観察して、総合的に判断するか、体重計に乗って、どちらに体重が偏っているかを調べることが必要です。簡易法として、こういうのはどうでしょうか。

調べる人を仰向けに寝かせます。そうして、脇腹を調べる。ここには【肋骨の下の端】と、【骨盤の上の端】があって、その間には骨がありません。この二つの骨と骨のあいだの距離を調べます。すると、たいてい左右で差があります。右が短くて、左が長い、という風になっています。あるいは、その逆。短い側が【短縮側】、長い側が【伸長側】で、短縮側が重心側です。

「重心変更法」は高橋迪雄(みちお、生没年不詳)の『正體術矯正法』という昭和初期の古い書物に出てくる操法で、やり方は至極簡単です。うつ伏せにして重心側と逆の側の腕と脚を横に出します。手は顔の横あたりに来るようにして、顔を手の方に向けておく。大腿を横に出して、膝を90度に曲げる。左右の脚で「コ」の字を縦にした状態にする。この状態で自分で脚をすこし持ち上げることが出来るなら上げればいいんですが、上がらない人が多い。そこで誰か他人が膝を持って数センチ持ち上げてやる。本人は脚の力を抜いておきます。そのまま5秒のあいだ持ち上げておいて、介添えをしている人は持ち上げていた膝を床にトンと落とす。後は、そのまましばらく寝かせておくだけです。

oncidium
オンシジウム

鎖骨と捻れ

あとで鎖骨を調べてみます。左右差がかなり変化しているはずです。横坐りの状態も変化しているはずですから、確認してみてください。「重心変更法」を名乗っていますが、身体の捻れを直す操法でもある。

例えば左に重心があれば、骨盤の左が後ろに来ている場合が多い。骨盤は、まんなかの仙骨を介して左右の腸骨がつながっています。その二個の腸骨が少し捻れてくる。左の腸骨が後ろに倒れ、右の腸骨が前に倒れます。すると、まんなかの仙骨は左が後ろ・右が前の状態になります。わずかながら捻れて来る。その結果、仙骨につながっている背骨も捻れてきます。これが身体が捻れる現象の大もとです。左右の腸骨が捻れると、全身が捻れる。

そこに左右の腕の張力の違い、左右の脚の重心の違いが働いて、背骨の弯曲が生じてきます。骨盤の捻れも背骨の弯曲も、同じことの二つの現象であるらしい。肩も左右に捻れてきます。それが鎖骨の左右差として見えるようになります。【鎖骨の左右の状態は身体の捻れを端的に表現する】貴重な場所なのではないだろうか、というのが結論です。

( 2014. 01 初出 )