前腕を締める
前腕の二本の骨が開いていると様々な影響が出ます。できるだけ締まっている方がよろしい。
脚と同じく腕も
あなたの上腕の後ろ、肘に近いあたりをぐっと強めに押えてみてください。多くの人は 「あ痛っ」 というに違いありません。そこまで行かなくても少し痛いなと思う人が多いでしょう。上腕のこの部分には「上腕三頭筋」(じょうわんさんとうきん) という筋肉があって、たいていの人がこの筋肉を硬くしています。そのために圧痛を感じるのですが、「なぜこんなところが・・・」と不思議に思うかもしれません。その秘密を探ってみることにします。
今回は 「アキレス腱」の項目と打って変って腕の話ですけれど、その続きでもあります。腕と脚は人間が四足動物だったころには似たような働きをしていたのですから、確かに構造が似ていて不思議ではないでしょう。
アキレス腱の項目では、足の指を開いてアキレス腱を伸ばすようにすれば、下腿が締まり、それにつれてアキレス腱が伸びるようになり、腓骨も引き上がるという話をしました。
ここでは手の指を開いて甲側を手前に引くようにすれば、前腕が引き締まるという話です。前腕の二本の骨が開いていると、硬く太く動きにくくなってきます。でも手の甲を手前に引いたり、足の甲を引いたりすれば、すぐれた効果があるはずです。
パーにして手前に引く
では、やってみましょう。まず手の指を「パー」の形にして、掌を向こうに向けます。そうして甲を手前に引きつけてくる。すると前腕に対して手の甲が約90度ほどまで曲がるはずです。そこまで曲がらない人はかなり硬いのでなぜ硬くなってしまっているのか、よく考えることが必要です。その状態でしばらく持続する。足の場合と同じく20~30秒ほど持続します。ここでは、この操法を「前腕操法」と呼んでおくことにします。(念のために書いておきますが、前腕操法をすると親指が痛くなる人がいる。そんな人は親指の付け根に異常がありますから、ケアが必要です。)
操法が終われば、さっき痛かった上腕うしろにある上腕三頭筋をぐっと押えてみる。すると、もう痛みがないか、あったとしてもずいぶん軽減しているでしょう。これもまた不思議だ。なぜでしょう。
答えは次のようなことです。
まず前腕が締まると、どのようなことが起きるか。前腕にある橈骨と尺骨の間隔が締まってきます。同時に下っていた橈骨が上ります。一言でいえば、前腕が締まってきます。すると、橈骨が下っていたために、引っ張られて、カンカンに硬くなっていた上腕三頭筋が、少し楽になるわけですね。緩んできます。そのため、この筋肉の痛みが軽くなります。
上腕三頭筋が身体の他の部分にどのような影響を与えているかを詳しくみると複雑な話になりますが、かい摘んでいえば、肩を引っ張り、肩を通じて腰を引っ張っています。そのため、この筋肉を左右一方だけ緩めることは禁止しなければなりません。腰がゆがんで腰痛を起こしかねないからです。この操法をする時は必ず左右両方を同じようにしてください。
もしも一方だけすると危険だという事実を実験で確かめようとすると、一方だけ前腕操法をして、正坐してもらったらわかりますが、いままでまっすぐに坐っていた人が、わずかに傾いてくることに気づくでしょう。
全身に影響する腕
以上のように前腕が開いて橈骨が下っているのを放置していると、腰にまで影響があります。肘を悪くしていると膝にまで影響が及ぶかもしれません。だから膝を傷めている人は、特に前腕操法をやっておくとよいと思います。
それだけではありません。肩こりがひどい人、腕が上がらない人、背中の上の方に違和感があって不快だという人、そんな風に肩の周辺に異常を感じている人は、前腕操法を試す価値があります。
すると、もう影響は全身ではありませんか。その通り。前腕の開きは全身に影響があると言って差し支えありません。手首に全身の健康状態に関連するツボがあるという主張が見られますが、その通りだと思います。理由は前腕操法をやってみれば明らかでしょう。手首の動きが硬くなると、全身の危険信号です。手首を柔軟にし、大切に扱ってください。もちろん、足首も同じです。
( 2012. 12 初出 )