ヨーガ(ヨガ) その難しさ
ヨーガの形だけを追求すると、とんでもないことになるという実例。
やり過ぎて腰痛に
坐骨神経痛と思われる女性が来られました。整形外科でレントゲンを撮って見ると、腰椎4番(5個ある腰椎の上から4番目)のところで神経が折れ曲がっていて、そこが大変痛むのだそうです。いつものように腰痛の時の施術をやってみても、あまり効果がありません。確かに骨盤の傾きやねじれがありましたので、それを取り除いたのですが、少しはましになったものの、すっきりするわけではありませんでした。
そこで、腰痛になった経過をいろいろ尋ねてみました。この人は最近までヨーガの指導をしていたそうです。ところが、ブリッジをしている時にグキっと来て、それからだんだんと痛くなってきた。初めは腰の周辺だけだったのが、脚まで痛くなってきたというのです。それでヨーガの指導ができなくなって、教室を閉鎖してしまった。整形外科では手術が必要といわれて恐怖に襲われ、あわててネットを検索して訪ねて来られたというわけでした。
私自身の背痛体験
この話を聞いて、私自身のヨーガ体験を思い出しました。前のページで書いたように、30年ほどまえに私はヨーガの道場に通っていました。しばらくの間はたいへん熱心に続けていました。道場で取り組むだけでなくて、自宅でも毎日いろいろと工夫してやっていました。でもやがて止めてしまった。背中が痛くなったからです。いま思い出してみると、おそらく胸椎下部のあたりを傷めたに違いありません。そのあたりが痛くなりました。
そこで私はヨーガの指導をしている人に、背中が痛いと訴えて改善方法がないかと尋ねました。しかし、その人からは適切な方法を教えてもらえなかった。そのためしばらく背中の痛みが続いていました。これはさほどの痛みではなかったのですが、この程度の痛みも解決できないのか、と失望感を抱いて、道場に通うのをやめてしまったんです。もしもあの時に何かの解決法を示してもらっていたら、ずっとヨーガを続けていたかもしれません。思い返してみると、残念なことでした。
指導者は対策を知らねばならない
ヨーガ(あるいは、ヨガ)が流行だそうで、あちこちにヨーガ教室があります。でも、気軽に通うのは考えものかもしれません。指導者がこんな時の解決法を心得ているならいいですけれど、そうでなければ、場合によっては苦しむ結果にならないという保証がないからです。
いまヨーガをしている読者がいらっしゃったら、ぜひ慎重にと申し上げたい。具体的にどうすればいいのかといいますと、けっして無理なアーサナ(ポーズ)をしないことです。少しずつ自分の身体の可動域を広げて行くのはいいですけれど、いっきに柔らかくしようとは考えないことです。前の項で書いたように、けっして奇妙な形をとることがヨーガの目的ではないのですから、難しい形を無理にしようとはしないこと。ある形ができないとすると、できなくしている硬さがどこかに潜んでいます。この硬さを無理に乗り越えようとすると、ぐきっとやってしまうことになりかねません。
ヨーガの指導者は、生徒さんのどこが硬いのか。どこに問題があるから、このアーサナができないのか、ということをつかんで適切に指導できることが必要です。そうでなければ、この方のように、指導者ご自身が事故を起こしてしまうことにもなりかねませんし、指導を受けている人が同じようなことに見舞われる危険性もあります。まことにヨーガの指導は難しいことだと思います。「ビューティ・ヨガ」などと気軽にやれるものではない。この女性も、自分のこれまでの指導がまちがっていたことを知って、我ながらたいへん恥ずかしい思いをしていると話してくださいました。誠実な方だと思いました。
で、この方はどうなったか。二度目も来られました。お尻の奥の梨状筋(りじょうきん)という部分がたいへん硬くなっています。この部分をゆるめると自発痛がなくなりました。でも、前かがみになった時の痛みがとれません。このしこりをゆるめればよくなるという見通しを持ちましたから、しばらく通って、この部分のしこりを解き放つ必要がある、ここで神経が圧迫されているのだろう、とお話したのですが、ぱったり来なくなってしまわれました。手術を受けられたのかもしれません。でも、手術でなおるかどうか。