膝と股関節の関係
膝(ひざ)を傷めている人が多いですね。靭帯(じんたい)など決まったところが痛む人、膝の周りがみんな痛いという人、正座ができない人、あぐらがかけない人などさまざま。難しいものも中にはありますが、膝は扱いのやさしい関節だといっていいと思います。
ひざのズレ
膝について書いてある本は探せば色々あるでしょう。ところが、ほんとうに頷(うなず)かせるものが少ない。ちょっとした説明はどの本にも書いてありますが、膝の全体を明らかにしたものは非常に少ない。鶴田聡さんという方が『仙骨理論』(2003年4月、たにぐち書店)で書いたのが初めてかもしれません。なぜこんなことになっているのでしょう。たぶん、膝は膝だけで動いているものでないことが、これまでよく分かっていなかったからです。膝は膝だけを見ていても分かりません。股関節や足首と関係づけて見る必要があります。
お皿とすねの骨
膝くらいと、あなどってはいけません。まずあなたの膝をながめてみてください。そしてお皿のまんなかを確かめてほしい。膝蓋骨(しつがいこつ)のまんなかです。私はこんな権威主義の言い方がきらいです。「膝のお皿」などと「幼稚な」いいかたをしたらいけないんでしょうか。やはり権威を示して「膝蓋骨」と言わないと正確に言い表せないし、正しく伝わらないでしょうか。そんなことはない。「膝のお皿」だったら子どもでも分かりますし、誤解も起きません。でも「しつがいこつ」と言われたら、たいていの人は「室外」を思い浮かべるでしょうね。この前、このお皿が動かなくなっている人がいましたけれど、脚を伸ばしている時に手で押してみると少し動くのが普通です。
次に、お皿の下を見てみましょう。ここに骨のでっぱりがありますね。すね骨の上の端です。犬が骨をくわえている絵がありますけれど、その骨の端にあるでっぱりを想像すればいい。これは難しくは脛骨頭(けいこつとう)といいますが、口で「けいこつとう」と言われてすぐに意味がわかる人、いますか。ほとんどの人は「えっ、何ですか、それ」と聞き返すでしょう。そんなのは、まともな言葉として成り立っていない。一部の人が素人をたぶらかす暗号みたいなものだ。で、膝のお皿の中心とすね骨のでっぱりとが、どんな関係になっているかを確認します。
普通、この二つは、お皿の中心に対してすね骨のでっぱりがやや外側にきているはずです。ところが人によってすね骨がお皿の真下に来ている。こういう人の膝は、膝の関節でねじれていると考えられます。正しい位置からやや内側にねじれている。
外また・内また
外股とか内股とかいいますが、これは現象をとらえた言い方です。外股や内股を正確に定義しようとすると、なかなか難しい。股関節の変位だけではないからです。つまり、こういう現象では、股関節の変位と膝の変位とが合併しています。場合によっては足首の変位もあって、一筋縄ではいきません。
ですから外股や内股を矯正しようとすると、こうした変位をひとつひとつ探っていかなければなりません。その上で、一つ一つの変位を正して行く必要があります。
股関節が外側へねじれているとします。この場合、股関節はまわる関節ですから、ここがうまく回っているかぎり、ねじれることはないはずです。なぜ「ねじれ」というようなことが起きるのかといいますと、大腿骨の上の端(骨頭)がやや後ろ、またはやや前のほうへずれるからです。
そのようなずれが起きると、周囲の筋肉があちこち引っ張られたり、圧縮されたりします。その結果、関節の周囲が異常に硬くなります。全身どこの関節でもそうですが、周囲が硬くなってくると、関節の動きが悪くなる。当然といえば当然でしょう。ところが、私はからだが硬くてねえ、とまるで自慢みたいにいう人が少なくありません。からだが硬いのがそんなにいいことでしょうか。どこかに自慢の響きが含まれるように感じられるのは、筋肉が発達すると硬くなると信じているからではないでしょうか。
からだの硬さは自慢できることではありません。筋肉は柔らかであればあるほどうまく動きます。これは赤ちゃんのからだを見ればすぐ分かるでしょう。ところが股関節の硬い人が実に多い。あまり歩かなくなったからではないでしょうか。いつも車を利用するようになって、べんりさと引き換えに、とても大切な股関節の柔軟性を、人は失って行きつつあるのではないか。そんなふうに思います。しかも股関節が硬くなると、土台が硬くなるにつれて胴体も硬くなってくる。車による大気汚染の問題も大変ですが、それよりもこちらの方がずっと問題の根が深い。