膝痛 (5) なぜ膝が痛むのか
膝そのものを触らなくても、足首と股関節を改善すると膝がよくなります。
内踝の圧痛
膝痛の人は、足首にある距骨が内側へズレていると前回、書きました。もう一度、距骨の位置を確認しておきましょう。足首の内くるぶしがありますね。その下です。人によって圧痛のある場所が少しずつ違います。やや前寄りの人もあるし、やや後ろ寄り、つまりアキレス腱に近いところが痛む人もあります。また圧痛の程度もさまざまで、非常に痛がる人から、まあちょっと違和感がありますね、と澄ましている人まで、さまざまです。
距骨がズレているといっても、ズレの位置や程度は人により違っていることが分かります。しかし、いずれにしても内くるぶしの下あたりに圧痛があることに違いはありません。これは何を意味しているのでしょうか。
膝のどこがおかしい?
膝痛の歪み方は一通りではありません。痛む位置も同じではありませんが、ほぼ共通しているのは、ふくらはぎの外側にある腓骨(ひこつ)が外へ下へズレていること、脛(すね)の骨である太い脛骨(けいこつ)がやや斜めになっていることです。もっと早くいえば、O脚傾向になっている。膝痛の人の大半はO脚傾向にあるといってもいいでしょう。そうでない人もありますが、見た目にO脚でなくても、歪み方を総合的にみると、やはりO脚といっていいように思います。
膝の部分がどうなっているかといえば、膝関節には半月板というクッションが内側と外側に入っています。この半月板が外側にわずかにズレていると思われます。実際に半月板そのものを解剖して見たわけではないので、そのように想像しているだけですが、多分そうなっているでしょう。
すると脛骨自体もわずかに外へズレていなければなりません。半月板だけが外へズレているということは考えられません。なぜかと言えば、これは解剖図をみれば分かることですけれど、脛骨の上の端、つまり膝関節の下の面は中央に膨らみがあり、その両側に半月板が位置している構造になっているからです。
事実、膝の悪い人の膝蓋骨(お皿)のすぐ下を見ますと、脛骨のいちばん上がお皿に対してやや外へ来ています。そうして脛骨の角度と大腿骨の角度を比べてみますと、脛骨は大腿骨に対してやや斜めに傾いていることが分かります。つまり膝が悪いと、ほんらいまっすぐにつながっているはずの大腿骨と脛骨とが、まっすぐにつながらずに、やや斜めにつながる状態になっているわけです。斜めとは、どう斜めなのか、と疑問を持たれる向きがあるかもしれませんが、脛骨の上の端がやや外、下の端がやや内に斜めです。
つまり、上からかかっている荷重がまっすぐにかからないことによって、脛骨の上の端では外側にかかる負担が大きくなっています。これを腓骨が何とか支えている格好になっています。一方、脛骨の下の端では、やや内向きになっているわけですから、下のものは内側むきの力を受けてしまいます。すねの骨である脛骨の下にあるのは何かといいますと、何度も名前の登場している距骨です。
余談ですが、この距骨(きょこつ)という骨は、人間以外のたとえば犬や馬では、足首というより、少し上の位置にあります。人間でいえば、犬や馬はつま先立ちをしていると思えばよろしい。すると足首の位置は地面のすぐ上でなく、やや離れたところに来ますね。この骨は人間でも四足動物でも体重を支える重要なものであるらしく、非常に硬くできていて、化石でも距骨はよく残るのだそうです。ほぼ立方体のような形になっているため、大昔は距骨をさいころに使ったといいます。どこかの博物館で、さいころに加工した距骨を見たことがありました。
膝を触らなくても
話しを元に戻して。距骨には上からやや斜めの力がかかってきます。すると、距骨は自然に押されて内側へとズレてきて不思議ではありません。膝の状態がわるければ、距骨も無理をして外へ大きくズレているでしょう。実際、膝が非常に悪い人の内くるぶしを見てみますと、ほとんど内くるぶしがあるのかないのか分からないほど、距骨が内側へ寄ってしまっていることが分かるでしょう。
以上のような次第で、膝の状態を改善するには、距骨の位置を正常に戻してやることが大切であることがわかります。間違っても内くるぶしの下を無理に押し込むようなことはしないでください。そんなことをすると、前回も書いたように激痛になってしまっても、私は責任を持てません。反対に、距骨の位置をやや内側に押し込むようなつもりで、つまり普通に考えると、さらにズレをひどくしてしまいそうな方向へ軽い力で押してやります。時間にして10秒とか20秒とか、そんな程度です。そうして内くるぶしの下の圧痛がなくなったかどうか確認します。まだ完全にとれていなければ、同じことをもう一度くりかえす。そうすると、少しずつ距骨の位置が回復してきます。
そして「なるほど」というべきか「さすが」というべきか、膝のところで脛骨が大腿骨に対してズレていたのが、改善してきます。膝そのものをまったく触らなくても膝が自然に回復してくるわけです。とはいえ、膝がかちかちになってしまっている場合は、こうは参りません。他の方法で対処することが必要です。
この調子で書いていると、どんどん長くなってくるので、今回はこれくらいにしておきましょう。実は、膝のところで、脛骨が大腿骨に対して前にズレているという問題が残っているので、それについては別に触れることにします。 → 膝痛(6)に続く
( 2010. 06 初出 )