膝痛 (1) なぜ膝が痛むのか

歩いていると膝が痛くなるのは、永年の使い傷みだから仕方がないと諦(あきら)める前に、なぜ膝が痛くなるのか、立ち止まって考えてみましょう。

sara
沙羅の木(宇治植物公園)

膝がひっかかる

福岡セミナーの帰り道のことです。セミナー参加者の女性が「百歩も歩くと膝が引っかかってしまい、すぐに脚をやや外側の空中で振って、狂いを修正しながら歩く」とおっしゃっていました。すると、並んで歩いている子どもさんが「お母さん、それ怖いよ」と叫ぶんだそうです。

膝・腰などの痛みを抱えた人が朱鯨亭を訪れることがよくあります。頭痛や肩の痛みなどもあり、痛みを感じている人の方が多いかもしれません。ただ「痛み」といえば、分かったような気になりますけれど、本当のところ、どこがどのように痛いかは本人にしか分かりません。それぞれ場所も違いますし、痛み方もさまざまです。ずいぶん苦しい思いをしていらっしゃる方が多いだろうと思います。

最近、私も膝の痛みを体験し、なるほど膝が痛くなればこんな具合になるのかと納得できました。その体験に基づいて、少し皆さんに参考になることもあるかなと考え、膝痛について何度かに分けて書いておきたいと思います。

tampopo
西洋タンポポ

膝関節の構造

膝関節の構造がどうなっているか。この概略を知っていないと、膝痛について話すことができません。膝関節は単純に前後に折れ曲がるだけの関節だと思われているでしょう。ところが細かく見るとそうではありません。『構造医学』(吉田勧持、エンタプライズ、1999)という本に書かれているのは、膝の関節のところで、太ももの「大腿(だいたい)骨」とすねの二本の骨のうち太いほうの「脛(けい)骨」、この上下二つの骨が、微妙に揺れ合っている構造だということです。

つまり、いつもいつも膝は蝶番(ちょうつがい)のように同じ場所で繰り返し前後に折れ曲がっているのではなく、二つの骨の接触する場所(といっても軟骨を介しての接触)が微妙に不等回転しながら折れ曲がる構造をなしているそうです。「不等回転」とは何か。円でもなく楕円でもなく、鉛筆ででたらめにグルグルと動かす時、紙の上にデタラメに曲がりくねった曲線が描けるでしょう。あれです。微小ながらあのような動きが膝の内部で生じているんです。

なぜそんな複雑な構造になっているのか。これは地面が平らでないからじゃないかと私は考えます。舗装道路のようにほぼ平らなところばかり歩く(または走る)のなら、蝶番の構造で間に合うはずです。ところが地道を歩いてみれば分かるように、地面はどこまで行ってもデコボコがあって、微妙なずれに対応しなければうまく歩けないのではないでしょうか。おそらくそのために不等回転という難しいことができる構造になっているんでしょう。これがロボットの膝と違って人間の膝が優れている点です。

不等回転ができないと

shidarezakura
シダレザクラ(奈良)

このことが膝の痛みと関係しています。不等回転が完璧にうまく出来ていれば、膝は痛くなりません。ところが何かの事情(人によって事情が違っていることでしょう)で、不等回転がうまく行かなくなると、地面の変化にうまくついていけなくなってしまいます。その時に痛みがでます。多いのは階段ですね。特に階段を下るとき。不等回転がうまく行かなくなって、正常ではありえない場所を骨が押してしまう。すると痛みが出てきます。

膝が痛い人は、何かの拍子に膝がガクッとなったり、急に膝がどちらかに狂ったようになって激痛を感じる瞬間を経験しているでしょう。こんな現象は、まさに膝の狂いを象徴しています。冒頭にあげた女性は、不等回転のうまく行かないところを修正しながら歩くという妙技を発揮しながら歩いていらっしゃることになりますね。なぜ、こんなことになるのか、というのが次の問題です。   → 膝痛(2)に続く

( 2010. 04 初出 )