「坐骨神経痛」

坐骨神経痛というのは、おかしな名前です。坐骨神経が圧迫されて痛みが出ているという説明とは別のところに原因があるからです。

saraca
神聖なサラカ

骨盤が傾いている

だれでも名を知っている「坐骨神経痛」。その名から、坐骨のところにある神経が異変を起こして痛くなるのだろうと考えます。事実、この病名を付けられた人は、たいていお尻のところから下に、大腿・下腿が痛いといいます。あるいは、しびれを伴っているという。その意味で確かに間違った病名ではないかもしれません。しかし、この症状と取り組む人間からすれば、どうも妙な名前だな、と思わざるを得ない。坐骨神経のあたりを触ってみたところで、うまく解決しないからです。むしろ問題は骨盤と下腿にあるのではないか。

この症状の人は、共通して【骨盤が左右どちらかに傾いている】。痛む側に傾いています。もともと骨盤、特に仙腸関節(せんちょうかんせつ)という部分、骨盤の外側にある大きなふたつの腸骨(ちょうこつ)と、中央にある仙骨(せんこつ、むかしの本には「薦骨」と書かれている)とのつなぎ目は体重の分配をしているところで、これが傾くと体重が左右にうまく50:50で分配されなくなります。そうすると、傾いた側に余分な体重が掛かって痛みが出る。

もちろん傾きが小さいなら、おおきな問題が出ることがありません。問題が出ない程度の傾きは誰にでもあるといえるでしょう。その程度が一定の水準を超えると痛みが出てしまうというのが真相です。ではなぜ痛みが出るのか。ほんとうに坐骨に問題が発生して痛みが出るのだろうか。坐骨に問題が発生していると考えるのは単なる「仮説」ではないだろうか。

yukka
ユッカの一種

二本の骨が捻れながら開く

この症状で来たAさんは、最後は脛骨(けいこつ、すねの骨)を触ると解決できました。脛骨がどうなっていたか。内側へ捻(ねじ)れていたんです。たびたび書いているように、下腿(かたい、膝から下)には脛骨と腓骨(ひこつ)という二本の骨があります。内側が脛骨、外側が腓骨です。この二本が互いに開いてくることが多い。「開く」というのは二本の骨の間隔が離れてくることです。しかし、どうやら二本の骨は単純に間隔が開くのではないらしい。【捻れながら開いて行く】のではないだろうか。これが私の「仮説」。

二つの歯車が回転する時、一方が左に回れば他方は右に回ります。ですから一方が外に捻れて行けば、他方は内に捻れて行く。(内・外というのは身体の内側、外側という意味で、正中線に近い方が内、遠い方が外)脛骨と腓骨はそのような関係になっていて、【脛骨は内側へ腓骨は外側へ】捻れて行くのではないか、と考えます。ひょっとして、と思ってAさんの下腿を握ってみると、下へ行くほど硬かった。なぜ「ひょっとして」と思ったか。説明をするのが難しいですが、以前から、この捻れの関係があるのではないか、と思っていたからでしょう。ともかく握ってみた。すると下の方へ行くほど硬くなっている。これは何なんだ。

oncidium
オンシジウム

脛骨も捻れる

そこで脛骨の内側のへりを押さえてみたんです。すると「あ痛!」という声。捻れて開いて行くと言っても、まさか脛骨が圧痛を発生するほど捻れているとは思わなかったのですが、事実はそうなっていました。脛骨が内側へ捻れて、脛骨の内側に圧痛があった。しかも少々の圧痛ではなく、かなりきつい圧痛です。そこで脛骨の歪みを正すために、脛骨の圧痛とは反対側、対蹠点(たいせきてん)を「グッと押さえてパッと放す」という操作を何度かしてみました。すると、最終的に坐骨神経痛の痛みが消えてしまったわけです。

そうすると坐骨神経がお尻のあたりで圧迫されているから痛みが出ると考えていては、脛骨の操作で痛みが消えた理由の説明がつきません。もちろん、骨盤が全体として傾いているのは事実で、それによって余分な体重がかかっているのも事実です。しかし痛みが出た原因はそれだけでなく、脛骨が捻れていたことにもあったと考えないわけに行きません。すべての坐骨神経痛がこのような原因で発生していると主張するつもりはありませんが、時としてこのような場合もあると考えて対応する必要があると考えます。少なくとも【坐骨神経痛の多くは脛骨・腓骨と関係している】ととらえるのが正しい、と考えます。

なぜ二つの骨が捻れてくると考えるのか。それについては別に書きましょう。

( 2013. 12 初出 )