骨折の痕
思わず転んだ。気がつくと骨折してしまっていた。さあ、どうしたらよいでしょうか。
ガリバーのように
昨日こられた方(2回目)は、夏に左足第4趾(薬ゆび)の第1関節のところを骨折して痛みがとれないと言って来られた方でした。前回ほぼこれで大丈夫かな、と思うところまで行ったのですが、昨日、まだ少し痛みが残っていると言われます。これでは、前回の私の気持ちに緩みがあった、と言われても仕方がありません。細かな指の観察が十分でなかったのは恥ずかしい限り。(ちなみに手のゆびは「指」で「てへん」の字を用います。足は「趾」で「あしへん」の字です)
足の趾は非常に小さいので、操法するといっても、なかなか難しいところ。でも本人にしてみると、趾が痛いのは、歩く時の苦痛を考えれば決して放置できないものでしょう。想像してみればその苦痛はわかります。
まず第4趾をあちこち触ってみます。骨折そのものは、半月ほどで治ってしまったそうで、第1関節を強めに押えてみても痛くはない。ところが第3関節の裏側、第2関節の裏側に圧痛が残っています。足の趾を触っていると、ガリバーが小人の骨を触っているような気分になってきますから面白い。
骨折の痕に硬縮
いや、面白がっていてはいけません。まずは第3関節から。細かい操法をしようとしても、うまく行きませんので、甲側から愉気をすることにしました。2分ほどして押えてみると、まだ少し。続けて愉気をします。また2分ほどして押えてみると、あ、もう痛くありません ──。それはよかった。
次は第2関節。これが、愉気を続けてもなかなか痛みがとれない。ある程度のところまでは痛みが減るようですが、それからが進まない。それでは細かいことをしてみよう。第1関節と第2関節の間の小さい筋肉を裏側から緩めます。ここに筋肉の硬縮(硬直)があるように感じたからです。
そして第2関節に誇張法を使ってみました。やりにくいなどと言っていられません。関節をあちこち動かしてみて、痛みが感じられる方向へ気持ちだけ動かしてじっとしている方法です。これで痛みがとれたようです。立ってみて下さい。歩いてみて下さい。もう痛くありませんか。はい ──。よかった、よかった。でも指1本に30分近くかかったとは、いったい何をやっていたのか。
「何かあった時の為に」
少し話しが変ります。整体の先達、野口晴哉さんに『健康の自然法』という本があります。いまは絶版で、古本を検索してみると10万円近くですから、まず買おうという人はいない。それがどういうわけか(実はむかし、ある人から頂いたのですが)私の手元に一冊ありまして、色々と参考にしています。
この本の前半は「ポンに愉気の方法を説く」、後半は「何かあった時の為に」となっています。前半は大変おもしろいので、いつかご紹介したいと思っています。また後半にも興味深いことが色々書いてあって、野口さんの操法の真髄ここにあり、という感じをもって読めるものです(ポンとは、野口さんの息子さんのアダ名です)。
朱鯨亭には整体関連の本が色々おいてあって、自由に貸し出ししています。そこにこの本を置いておくと時々姿が見えなくなって、調べものをしようとした時に困ることがあるので、この本はコピーを置いてあります。読みたい方は、そちらをお読みください。
さて『健康の自然法』の後半、「骨折」の項目を読んでみたい ──。
「骨折となるとむずかしい。しかしパパは粉砕骨折というむずかしい骨折を素人の人が愉気をしたら治ってしまったという例を幾つも知っているし、たいていの骨折は愉気をしていると自動的に治ってしまう。・・・手でも足でも方法はどこでも同じだ。折れた所から上の筋肉を触ってゆくと硬直しているところがある。そこをよく押え、放しして愉気をしてその硬直をゆるめる。そうすると骨が折れて曲っているところが少し動く。動いたらそれを引っ張ればいい。そうしておけば曲ってつながるということはない。外部に骨が飛び出してしまった時以外はその場処から上の筋肉を愉気してゆるめるだけで、多くの場合真直ぐにつながる。筋肉の麻痺をとることが早く治す要点だ。・・・肋骨の折れたのは脊椎の位置を正しておけば、それだけで正確につながる。」
実はこの部分を後から読み返したのですが、なるほど、と思うことが書いてあります。骨折個所の第1関節ではなく、第2関節と第3関節に異常がありました。そうして第1関節と第2関節の中間に筋肉が硬直しているところがありました。骨折個所がもうくっついた後まで、野口さんのいう「硬直」が残っていたことになります。
( 2012. 11 初出 )