リスフラン関節
足甲の中ほどにリスフラン関節があり、ここが歪むと足が痛くなります。他にも上部に影響があるようなので、注意が必要です。
足の中央の関節?
19世紀のフランスに、ジャック・リスフランJacques Lisfranc(1790-1847)という外科医がいました。仏英のウィキペディアにも名前が載っているほどですから卓越した技量の持ち主だったのでしょう。子宮や大腸の手術に手腕を発揮したと書かれていますが、その名前はどのようなわけか、足の関節に残りました。
「足関節」といえば普通は足首の関節ですが、この関節は足根部と足先の真ん中あたり、足全体を前後に二分するところにあります。一つの関節ではなく、複合関節とでもいえばいいのか、中足骨と楔状(せつじょう)骨* ・立方骨との境界線をなす関節です。詳しくは、足の解剖図を探してご覧ください。「リスフラン関節」と呼ばれています。
* 「楔状骨」は解剖用語として「けつじょうこつ」と呼ばれていますが、広辞苑では「せつじょうこつ」となっていて、漢和字典を調べてみても、やはり「楔」は「せつ」と読むのが正しいようです。明治時代の学者先生が間違って「けつ」と読んだのがそのまま残ったのでしょう。
こんなところに関節があるなんて普通は誰も考えないでしょうね。ほとんど動く感じがありませんから。でも試しに片手で足首をしっかり押さえ、もう一方の手で足先を持って上下に動かしてみてください。わずかながら動くでしょう。リスフラン関節が動いているわけです。
足裏が痛い
うかつなことに、この関節に重要な意味があるとは最近まで気づきませんでしたが、ひょんなきっかけでこの関節の重要な意味が分かって来ました。この関節にわずかな歪みがあっても、上に影響を与えるからです。もう少し詳しく言って見ましょう。リスフラン関節に歪みがあると、足首側の楔状骨や、足先側の中足骨に圧痛が出ます。これが曲者で、足の動きを悪くしている。あるいは上の方を引っ張って、例えば膝の痛みを引き起こしたり、胸の圧痛まで引き起こしたりしています。
つい先日もリスフラン関節に痛みの出ている例にめぐりあいました。東京・新宿で足の整体の話をしてほしいというご依頼があり、埼玉セミナーの翌日、話しをして来ました。参加者にリスフラン関節のあたりに歪みのある人がいて、足裏が痛いとおっしゃいます。見ると楔状(せつじょう)骨の一つがやや陥没しています。この骨は「楔状」の名前に表れているように、上部が大きく、下部が小さい「楔(くさび)」の形をしています。だから下に変位することは珍しく、たいていは上に変位します。ところがこの方の場合は下にズレていた。確か3つある楔状骨のうち真ん中の中間楔状骨だったと思います。
下にズレた場合、上から金づちのような重量物が落ちてきたのが原因かな、と思われます。でもこの方の場合はそういう記憶がなく、だんだんと痛くなってきたらしい。ですから原因不明ですが、ともかく下にややめり込んでいるわけです。
指に力が入らない
このような場合、方法は色々考えられます。ただ、楔状骨に限っては、下から「反動」をかけるのがベストです。「反動」というのは、「あの人は古臭い反動思想の持ち主だ」というような場合の「反動」ではなく、痛みの反対側、対蹠(たいせき)点からぐっと強く押さえ、パッと勢いよく離す方法のことです。指のゆがみなどでも反動を使うことは確かに可能です。上手にやれば問題なくできますけれど、歪み方の観察が間違っていると、却って歪みをひどくする場合がありますから、指の関節にはお勧めできません。
さて、この女性にこの方法を1回か2回やっただけで痛みが消えました。歪みがとれたことになります。この方の場合、歪みが大きかったため足裏に痛みが出ていましたが、通常は何もしなければ痛みを感じません。しかしリスフラン関節を上からぐっと押さえると、あいたっ、と圧痛を感じることが結構ある。楔状骨が変位していることが多いですが、中足骨側が変位していることもあります。別のところでも書いたように、中足骨の変位は上部に大きな影響を与えていることが多く、膝が悪いような時には、見逃せません。
要するにリスフラン関節の変位を見逃しただけで、色んな不調が消えないままになることがありうる。要注意の隠れたポイントだと言えます。
( 2012. 01 初出 )