距骨(きょこつ)

足首にある「距骨」。この骨はたいへん重要な働きをしていて、足首の調整をするポイントといえる骨です。のみならず全身の左右バランスに関係しているため、全身の調整をするポイントの一つともいえます。

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右足首の骨

昔、サイコロに使った

「距骨(きょこつ)」という字を見ると、足偏だから足の骨だろうと見当がつきます。でも足のどこにある骨かとなると分からない人が多いでしょう。右の図をご覧ください。

人の距骨は、こういう目立たないところにあります。上に乗っかっている脛骨(けいこつ)、つまりすねの骨と、かかとにある踵骨(しょうこつ)との間に挟まっているため、外からは触りにくい骨です。

四つ足動物の場合はどうか。彼らは人でいえば爪先立ちの状態で歩いています。そのため後ろ脚の「けずめ」と呼ばれるところに距骨があります。お宅のワンちゃんで確かめてください。非常に硬い骨なので古くは羊の距骨などをサイコロに使い、化石になってもよく残るんだそうです。

言葉で説明すれば足首の奥にあるといえばいいでしょうか。距腿(きょたい)関節で上部のすねの脛骨(けいこつ)とつながり、下は距踵(きょしょう)関節でかかとの踵骨(しょうこつ)とつながる位置にあり、足首のベアリングのような働きをしている骨です。

そんなに色々と関節があるのかと不審に思われる人もいるでしょう。足首には細かい骨が集まっていて、それぞれ互いに関節をなしています。ほんのわずかな動きをするだけの関節ですが、多くの関節があるために足首がスムーズに動くことができます。ロボットと人間の動きの違いは、こういう沢山の関節があるかどうかによって決まります。直接には触りにくい位置にあるため、施術の対象として軽く考えられているようです。しかし足首の故障を真剣になって詳しく調べたことのある人なら、この骨の大切さが分かるはずです。

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大阪・住吉大社の卯の花
(杉山喜久子さん提供)

距骨が内側へ寄っている

さて先日、左足首の調子がよくないと電話があったKさんという女性は、捻挫をした後かなり日数が経つのに歩くたびに足首に違和感がある、といわれます。拝見したところ、距骨に異常があるほか、かかとの踵骨がカチカチに硬くなっています。そのあまりの硬さに尋常でないものを感じるほどです。硬くなった踵骨はよく見かけますが、これほどのものは珍しい。

捻挫すると、足首が内側に倒れることが多く、たいていは立方骨という足の外側にあるやや大きめの骨に異常が出るのですが、立方骨は直ってしまったと見えて、何ともありません。距骨と踵骨とに異常があることが分かりました。つまり関節でいえば、距骨と踵骨のあいだにある距踵関節に異常があるに違いありません。

骨盤を整えたあと、踵骨を共鳴や操体など色んな方法で動かそうと試みましたが、カチカチの踵骨はビクともしません。これはいったいどうしたことだろうか。足首の動きがいいとは言い難いものの、動かないわけではないのですが、この硬さには恐れ入ります。

距骨にも異常があるといいました。少し詳しくいうと、距骨が正常の位置よりやや内側に寄っています。そのため内くるぶしが小さく、外くるぶしが大きく感じられます。これはよくあるズレで、距骨を外側から押して反動をつける動きを繰り返すと、多くの場合すっと戻ってくれます。試しにあなたの内くるぶしの周辺(やや下)は押して痛くないでしょうか。痛ければ何らかのズレがあります。

距骨を動かしてみることにしました。この距骨を動かす方法については共鳴を使う方法がありますが共鳴で動くほどやわなものではありません。そこで、このメルマガでも時々書いているように反動を使って動かします。痛みのある点(圧痛点)とは正反対の位置にある点(対蹠点)から目的とする距骨をぐっと押し、ぱっと力を抜くことを繰り返すと、骨が元の位置に戻ってくれるはずです。

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クレベランド・セージ(宇治)

てこでも動かない

ところがこの女性のばあいは、そうは参りません。手ごたえを感じ、少し動いたかなと思って足首を動かしてもらおうとすると、立ってみないと分からないとおっしゃいます。それではと立ってもらうと「まだ痛いです」。じゃあもう一度やってみましょう。えいやっと。「まだ痛みがありますね」。痛みは初めと変わりませんか。「ええ、ほとんど変わりません」。うーん。距骨じゃなくて、どこか他に問題があるのだろうか。共鳴を使ってみたり、反動を使ってみたりして何とか、これで。「まだ、痛いことは痛いですねえ」。はーあ。しばらく休憩。

距骨を手の共鳴で動かす方法があります。でもそれをやってみても、びくともしません。その他、眉毛をこする方法とか、ありとあらゆる考えつく方法を試したけれど、内と外のくるぶしの位置を見ると、さほど改善されたように見えません。やはり距骨に問題があるのだろうか。反動では動かないのだろうか。思案投げ首とは、こういう時のことをいいます。

距骨と踵骨に今も問題があるとすれば、やはりここにしか問題はない。元気を出して、と。何度も同じことを続けるのは気が凹みそうになりますが、でもそこにしか問題がないとなれば、そうするしかない。ぐうっと押して、ぱっと。これをもう何度か繰り返して、どうでしょうか、もういちど立ってみて下さい。「あ、ちょっと軽くなった感じです」。そうか、やっぱり。あと二回ほど繰り返すと、あれっ、急に足首の動きが軽快になりました。踵骨も少しやわらかになりました。「あ、動き出しましたよ」と私。

「もうほとんどありません、痛みが」。あーあ、良かった。でも「ほとんど、というのは、まだ少しは残っているのでしょう」と(自分でもしつこいなあと思いながら)尋ねると、「違和感程度です」。じゃあ、もう一度。「あ、完全になくなりました。ありがとうございました」。

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ローマン・カモマイル(宇治)

部分も全体も

これでやれやれ。踵骨のカチカチ状態もなくなりました。すっかり柔らかくなって、別人の足のようです。距骨や踵骨の狂いといっても、その人が捻挫を起こした場所、その時の足にかかっていた力、足がねじれた角度などによって、骨がどう狂うかも千差万別でしょう。ですから同じ方法を使っても、どれだけ操法を繰り出さなければならないかは人によって様々。

このカチカチの難しい症状をもった方が来てくださったおかげで、改めて距骨の大切さを確認できました。詳しくいえば距骨と踵骨の関係が歪んでいたわけで、その歪みが距骨の位置をわずかに変えることで解決できたことになります。Kさん、立ったり坐ったり、どうもお疲れ様でした。これだけの大切なことを学ばせてもらったのですから私の疲れなどはものの数ではありません。それにしても、これだけカチカチになって対応しなければならないほど何か月も硬くなっていた距踵関節がいちばんお疲れ様でしたね。

整体は来られるお客さまの立場からすれば、不具合を直して健康になりたい、ということでしょう。一方、施術をする立場からすれば、大切なからだの秘密を学ばせてもらって、もっとからだのことを詳しく知りたい。そう思ってやっています。本当にいつもありがとうございます。

さて、もっとも大切なのはからだ全体のバランスをとることですが、時には部分をどう解決するかが大切な時もあります。全体が大切ではありますが、部分が重要なときもあります。真理はすべて条件しだいです。そしてもう一つ見逃せない大切なことは、部分を整えると全体がよくなることが多い、という事実です。

( 2009. 07 初出、2012. 10 改訂 )