離れたところの原因

どこかに痛みがある場合、その箇所に原因があることも、もちろんありますが、離れたところに原因のあることも珍しくありません。その例をふたつ、昨日の例から。

hachiko
渋谷のハチ公

第1例 ──

還暦をすぎた女性。肩が痛くて夜中に目が覚めてしまうという訴えです。どこがどう痛いかといいますと、肩関節の前から上腕にかけて、腕を横から上げようとすると、上腕の前がつっぱる。腕を前から挙げれば、完璧ではありませんが、ほぼ上がります。脇の下もたいして硬くなっていませんから、五十肩とはいえません。

どこに原因があるのか探っていくと、肘の方から引っ張っています。肘のどこが引っ張っているのか。前腕の親指側にある橈骨が下がっている。これは別段めずらしくありません。たいていの人が橈骨を下げているといってもいいほどですから。

橈骨が下がるというのは、別の観点からすれば、橈骨が尺骨に対して捻れてくるということでもあります。この説明はしませんが、解剖図などを見て、お考えください。要するに橈骨が内側へ捻れて来ています。その結果、橈骨と上腕骨の関節(掌を上に向けている時、肘の外側にあたる場所)が掌側へ変位しています。言い換えると、橈骨が掌側へズレて、そこに痛みが出ていることが多いです。多くの人が、ここに痛みや違和感を抱えています。

この痛みを少しずつ取って行きます。どうやって。方法は色々あります。例えば、いちばん分かりやすいのは、痛みのある場所に愉気する方法でしょう。つまり痛みのある場所に指をあててしばらくじっとしている。押さえる必要はありません。ただ、じっと指を当てていればよい。誰もやってくれる人がいなければ自分でしてもいい。

あるいは、この上腕橈骨関節に対応する共鳴点は環指の第2関節の掌側の横紋のところ、厳密に言えば横紋の中指側の端にありますから、ここをじっと押さえていてもよろしい。

他にも色々方法はありますから、分かりそうな方は考えてみてください。そうやって、ここの痛みが取れると、肩がずいぶん楽になってきました。あまり引っ張らなくなって来たんです。

ただ、この上腕橈骨関節の変位は、前腕のさらに先の方、つまり手首に近いところにも影響して、手首の少し上あたりに別の圧痛を生じていることが多いし、手根部のあたりに痛みを生じてもいますから、そういう痛みも改善しておいた方がよい。どうやって改善するか。それを書き始めると、複雑なことになりますから、関心のある人は講座・セミナー・からだほぐし教室などに参加してください。以上が第1例です。

usagi-tyozuya
調(つき)神社、兎の手水

第2例 ──

膝が痛いという中学生男子。膝の内側、脛骨の骨頭(いちばん上の端)の内側あたりが痛いという。膝関節のところが痛いのかどうかははっきりしません。膝の痛みについては以前にも書きましたが、股関節・膝・足首が相互に連動していますので、その連動がどこでおかしくなっているかを観察することが必要です。

例によって探っていきますと、原因はどうやら恥骨にあるらしい。膝の痛みの強い左側の恥骨に圧痛があります。しかもこの圧痛が、尋常の方法では消えません。つまり以前どこかで紹介した恥骨操法を使うと、たいていの場合に恥骨の痛みが消えるのですけれど、今回はどうやっても消えません。

恥骨の右側にも少し圧痛があり、これは恥骨操法を施すと消え、同時に右膝の痛みも消えましたから、恥骨の変位が膝まで影響しているのは明らかです。ところが左側の圧痛が、いろんなことをしてみても消えない。どうするか。こういう時は気をとりなおして冷静になることが必要です。恥骨の共鳴点はどこか、と考えてみたんです。すれば、それは手首の少し手先側の掌側にあたるはずです。そこをしばらくじっと押さえ続けてみました。すると、圧痛が消えた。同時に膝の痛みも消えました。

病院では「鵞足炎」という診断をされていたそうです。鵞足というのは、膝の内側の少し下ですから、確かに鵞足に痛みが出ているわけで、鵞足炎というのは、その通りかもしれません。しかし、本当に鵞足が炎症を起こしているのであれば痛みが消えるわけはありません。恥骨の変位が大腿内側の筋肉のひきつれを生じ、これが鵞足の部分を引っ張って痛みを生じていたことになります。

なぜ恥骨の圧痛がどうやっても消えなかったのか、ですが、話をよく聞いてみると、どうやらこれはバスケで倒れた時に打撲したらしい。こういう人為的な事故の後遺症で歪みが生じている場合は、なかなか解消しにくいものです。

gembu
春日大社、亀と龍の燈籠

まとめ ──

どこかに痛みがある場合、その箇所に原因があると考えやすい。しかし原因が他の場所にあることも多いので、離れたところに原因が潜んでいないかどうか、よく考え、尋ねてみること、よく観察することが必要だということになります。そのために「歪み」がどのように連鎖しているか、全体がどのように関連しているかを知ることが重要です。

( 2011. 01初出 )